日本語〈上〉
岩波新書 1988/1/20
巷では「本当は知らない日本語」みたいなネタはウケやすいようで、Twitterなどでも良くバズる定番の一つではあります。
「そんなに好きなら、そういうネタだけ書いた本があるんだから読めばいいのになぁ……」
と、私がいつも思い浮かべるのがこの本。
短いタイトルほどダメ本率は低い傾向があります ―小飼弾『新書がベスト』
これは先日紹介した『新書がベスト』で小飼弾氏が述べていることですが、本書もこの例に漏れず、書籍史に残る名著だと思います。
1988年の出版にも関わらず、現在まで売れ続け、(電子化されない書籍が数多くある岩波新書の中で)しっかり電子化までされております。
本書は、
「世界の他のメジャー言語と比べた時に、日本語はどんな性質を持った言語か」
という観点から日本語を捉え直すに当たって、現在でもベストに近い入門書だと思います。
言語学の主要な領域としては、統語論、意味論、音韻論などがよく挙げられますが、本書はこれらについて一通り言及しています。
また、専門的な用語はあまり使わず、使うとしても基本的には説明があるので、予備知識が無くとも読み始められるという敷居の低さがあります。
私が時々扱っている言語ネタでも、
「日本語には英語と違って『first, second…』に相当する数表現が無いのか」
「英語の『音節』と日本語の『モーラ』はどう違う概念か」
「どんな音韻特徴の歌詞が歌いやすいか」
などなど、本書を下敷きにしたネタは割と多くあったりします。
というわけで、かなりお世話になってる本の一つです。
母語話者で「日本語について改めて学んでみたい」方がいたら、まず一冊目には本書を勧めたい。
反面で、「まず一冊目」に本書を読むことは良いことですが、本書の中にも誤りはありますので、出来ればそこで立ち止まらずに、他の著者の本や、新しい本なども是非読んでほしいです。
本書の典型的な誤りとして、例えば角田氏の「日本人の右脳・左脳」説を真に受けていることなどが挙げられます。(角田氏の研究は、現在では「追試で再現されない怪しい脳科学」のカテゴリです)
あと巻末にリファレンスが無いというのが大減点。
……繰り返しますが、良い本ではあるんです……
余談ですが、この著者・金田一春彦氏の家系は筋金入りの「国語一族」としても知られます。
国語関連の書籍やテレビで活躍される「金田一秀穂」は春彦氏の息子、国語辞典で有名な「金田一京助」は春彦氏の父です。
金田一京助(父)→金田一春彦→金田一秀穂(次男)
という血縁関係ですね。
さらにもう一つ余談を重ねると、「金田一」という姓で私が最初に連想したのは『金田一少年の事件簿』だったのですが、調べてみると実はこれも無関係ではないようで。
春彦氏の父の「金田一京助」は、横溝正史が推理小説の主人公の名前を考えるに当たって、「金田一耕助」の由来になったと言われています。(参考)
漫画の「金田一少年」は設定上、「名探偵・金田一耕助の孫」ということになっているので、「金田一春彦」と「金田一少年」は共に「金田一京助」の流れを受けた「金田一」ということに。
以上、締まらない余談でした。
良きにつけ悪しきにつけ日本語界隈の有名人・有名書籍ではあるので、教養としての一読は決して損にならないと思います。迷ったら読んでおくべき本。
狐太郎
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