世界の言語入門
講談社現代新書, 2008/9/19
見て下さい! この短くスマートなタイトル!
そして人文系に定評のある講談社現代新書!
これは文系大学生の教科書に推薦されるようなスタンダードかつバランスの取れた良書に違いない!
などという予断を平然と打ち砕く本です。
いや、悪い本ではないんですが……合う人と合わない人がかなり分かれそうな本です。
この『世界の言語入門』という本、いかにも「言語学習者向けのマジメでオーソドックスな本ですよ~」みたいなツラして講談社現代新書に並んでますが、実際かなり「変な本」だと思います。
本書では90の言語に対して均等に見開き1ページを割いて「広く浅く」紹介しております。
「中国語」や「フランス語」といった第二外国語科目の定番から、「パシュトー語」や「テルグ語」といった、多くの日本人が「それどこの国の言語?」と言い出しそうな言語まで。
そういうコンセプトだけなら、よくある「世界の言語」系の本と共通なのですが……。
まず、著者が一人で書いているという点からして異色です。
普通こういう本って複数人で分担執筆すると思うんですが、本書は黒田先生が一人で書いています。
そして、各言語についての説明に「フォーマット」が全く無い。
一応、各言語の項の最初に「言語系統」と「使われている国」くらいは書いてあるんですが、「話者が何万人」だとか「文字は何だ」とか、そういう基本情報の「型」みたいなものは用意せず、各種情報は気が向けば適宜紹介するという感じ。基本的には各言語について著者が思いつくままに「語る」だけなのです。
「はじめに」から著者自身の言葉を引用しておきましょう。
それほど多様な世界の言語について、たった一人で考えようというのだから、どうがんばってもエッセイにしかならない。だったら、言語学的な難しい記述ではなく、楽しく読みやすい物語を目指そう。
実際この本の「思いつきで書いてる」感はかなりすごくて、マジで「カレーしか思いつかない」とかぶっちゃけてるページまであったりする。
「言語を列挙して解説を加える」という体裁こそ保っていますが、ノリ的には「外国と外国語についてすごく物知りなおじさんが居酒屋でひたすら雑談してる」みたいな印象を受けました。
本当に最初から最後まで「授業の『脱線』の部分」だけで出来てるような本です。
真面目な学習書を期待して手にとった人はブチ切れてもおかしくないと思う。
だけど、「そういうのが好き」な人にとってはめちゃめちゃ面白いと思う。
「言語オタク」「文化オタク」の皆さん、真面目な本に飽きたら箸休めに如何でしょう。
★NEXT STEP
はじめての言語学
講談社現代新書, 2004/1/21
黒田先生がちゃんと言語学について書いた本。
「言語学」について、「そもそも言語学って何をする学問?」というレベルからガイダンスしてくれる、本当の意味での入門書です。
『はじめての言語学』自体が非常に敷居の低い「読みやすい本」なのですが、それでも『世界の言語入門』を読んだ後だと「あの本の人が真面目に学問の話してる! すげー!」という感覚になってしまうのがオモシロい。
狐太郎
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