「ウェクスラー式」知能テストの特徴は?【未知会ログ】

「ウェクスラー式」知能テストの特徴は?【未知会ログ】

前々回の記事の冒頭で、「広義の知能テスト」について触れました。

しかし何と言っても現在世界でスタンダードになっている知能テストは「ウェクスラー式知能検査(WISC, WAIS)」です。

今回は、他の様々な「知能テストintelligence test」と対比しつつ、WAISの立ち位置を確認してみたいと思います。

 

尚、WISCは現在米国で第5版(WISC-V)が発売されていますが、日本ではWAIS, WISCともにIVが最新であるため、本記事ではWAISもWISCもIVを基準に話を進めます。

そもそも知能テストって何?

実は、何が「知能テストintelligence test」に当たるかを認定する専門家団体などはありません

それぞれの心理学者が「知能をテストしていると考える検査」「知能テスト」とカテゴライズしている、とも言えます。

 

例えば、佐藤達哉氏は知能テストの本質を

「頭の良さ」を「科学的」に「測定」すること

(佐藤達哉: 新・心理学の基礎知識. 有斐閣, 2005/1/1: p.295)

であるとしています。

 

「知能テスト」のイメージから遠い「大学入試」も、実は例外とは言い切れません。

アメリカでは、高校から大学へ進学する学生の統一試験として「SAT」と呼ばれる試験が普及しています。

日本で言えばセンター試験のようなものでしょうか。

 

『Human Intelligence』の中でHuntは
「Binetの発明した最初の知能テストは、公教育のために子どもの読解能力を検査する目的だった」
「であれば、SATも知能テストとみなさない理由は無い」
といった見解を述べております。

実際、SATにはBinetの知能テストがいくつか流用されているようです。

すなわち、心理学的にはSATも知能テストの一種であると言えましょう。

 

「科学的に『知能テスト』とみなせるもの」は実は多岐に渡ります。

にもかかわらず、実際に「知能テスト」といった名を冠して販売されているのは「スタンフォード・ビネー」や「ウェクスラー式」のようなごく少数の検査のみです。

何故でしょうか?

 

この理由の一つとして、

『知能テスト』という言葉が世間的にはごく狭い意味で捉えられている

という事情があると思われます。

 

また一方で、アメリカやヨーロッパでは「知能」という語や概念が、人種差別や優生学と結びついて喧伝された時期があります。

このためポリティカル・コレクトネスの観点から、「知能intelligence」という言葉を避けて、「推論reasoning」とか「学力scholastic ability」といったネーミングが好まれる傾向がある、とHuntは著書の中で指摘しています。

 

日本でも「知能テスト」と堂々と銘打ったテストは少ないです。

……が、一方でネット上ではアヤしい「知能テスト」が氾濫しています。

上記の定義に則れば「まぁ言ってみれば何でも『知能テスト』って言ったもん勝ちなんだけど……」とは言えるものの、どうもこれらの試験を受けている人たちは、このテストスコアが「WAISやWISCで測るような知能指数と対応するもの」だと思っている節があります。

 

この手のネーミングでサービスの「SNS映え」を狙うのは、専門家と一般人との知識のギャップを悪用したネーミングとも言えるのではないでしょうか。

厳密に間違ってはいるとは言えないものの、個人的にはあまり誠実なものだとは思えません。

 

「集団式テスト」と「個別式テスト」

SATやセンター試験のようなテストWISCやWAISが何となく質的に違うと感じられるのは、他にも理由があります。

「検査が集団で行われるか、個人に対して行われるか」
というのは一つの大きな違いでしょう。

 

SATやASVAB(米軍の入隊試験)は、BinetやWechslerの知能テストを踏襲していますが、決定的な違いは「集団式テスト」へとフォーマットチェンジしていることです。

センター試験も集団式テストですね。

英検は(知能テストではありませんが)、筆記試験で集団式・面接で個別式、と両方併用しているテストと言えます。

 

集団式のテストは、コスト(時間・人材)の面で明らかにメリットがあります。

センター試験が、「1対1の対面型で、1人につき2時間かかる」なんてことになったら、毎年数万人の受験生を相手にすることは無理でしょう。

加えて、「文章を読む速度なども含めた認知能力」を測りたいのであれば、集団式のペーパーテストは極めて公平で正確だと言えます。

 

これに対し、ウェクスラー式知能検査は「個別式テスト」と分類されます。

「個別式」の優位性は何でしょう?

 

多くの個別式テストでは、「出題者が一つの問題を与え」「回答者がそれに回答する」という形式で一つずつ進めていきます。

集団式ではどうしても「読む速度」や「ペーパーテストへの慣れ」と言った「特定の形式に特化した訓練」に左右される度合いが大きくなってしまいますが、個別式にすればこの影響は相対的に小さくできると考えられます。

WAISにも「処理の速さを見る」問題はありますが、処理速度の測定を目的としない問題では「処理の速さに関係なく」得点が付きます。こうした区別があることで、目的とする能力をより切り分けて検出できると考えられます。

 

また、世の中にはペーパーテストでは扱えない認知課題もかなりあります。

例えば、

・パズルのような実物品を扱うテスト

・口頭で言ったことを記憶しておくテスト

などです。

WAIS, WISCにはこうした検査が含まれています。

 

また、「回答の状況によって出題が変化する」といった対応は個別式テストならではのものです。

例えばWAISでは、最初の1,2問が良く出来たかどうかによって、その後の3問目以降の出題が変わることがあります。

これは「幅広い知能レベルの人に対応する」という目的からすると非常に重要な性質です。

 

これと関連して、「回答者の応答に対して、出題者(採点者)が追加質問する」という場面もWAISにはあります。

中途半端な回答に対して「それはどういうことですか?」と聞き返して、返ってきた答えに応じて部分点が決まるようなケースです。

個別式ではこういったきめ細やかな出題・採点が可能ですが、集団式では「中途半端な答えは規定の基準内で採点」「そもそも中途半端な回答が出そうな出題はしない」という事情があり、回答に幅が出うる質問は悪問とされていますね。

 

上記の点に加えて、発達障害や精神疾患の鑑別では「点数に反映されないテスト中の振る舞い」も非常に重要です。

そのため、検査者の目視での観察が記載されることも個別式テストの重要な長所です。

 

「個別式テストは個別の振る舞いに対応できる」という長所は当然ながら「集団式テストが効率的である」ことと表裏一体なので、やはり個別式テスト集団式テストにはそれぞれの存在意義があるわけですね。

 

WAISはどんな検査か

では、そんな「個別式テスト」の中で、WAISはどんな特徴を持った検査なのか。

Stanford-BinetやKaufmannの知能テストに対して、Wechslerの知能テストは非常に「実証的」かつ「統計的」に設計されています。

 

初期のテストを作るに当たって、Wechslerは「既に知能テストの題材として一定の評価を得ている問題」を様々に試し、その中から検出力や難易度が適切なものを選抜して全体の検査を作りました。

更に現在のWAISでは、一つ一つの課題の問題セットでスコアの分布が正規分布になるよう、施行テストで得られたデータを元に問題が選出されています。

 

そしてこちらの記事にも書きましたが、そもそも「分散IQ deviation IQ」という指標も元々はWechsler式の検査で実用化されたものです。

WAISは、スコアが正規分布するように作っているからこそ、
正規分布していることを前提として分散IQを算出できるわけですね。

 

また、Wechsler式知能検査では、「知能の要素」も実証的かつ統計的に構築されています。

いきなりそんな事を言ってもわからないと思うので、先に「理論的」なテストを見てみましょう。

 

理論先行型の知能テストでは、例えば「知能には2種類ある。結晶性知能と流動性知能だ!」というカテゴリを最初から想定します。

そして、「結晶性知能とはこういう問題を解く知能だ」「流動性知能とはこういう問題を解く知能だ」という理論に沿って「結晶性知能スコア」と「流動性知能スコア」を出します。

この方法では、「本当にそんな知能の区分があるのか」「このテストが流動性知能だという根拠は何だ?」といった質問に、「うちの理論ではそうなんだ」としか言えません。

 

では、WAISでは知能をどう切り分けているでしょうか?

WAISでは「総合得点」に当たるIQ(FSIQ:Full Scale IQ)以外に、4つの「群指数 group index」というサブスコアでその人の得点傾向を示します。

 

以下に4つの群指数と、含まれるタスクを簡単に紹介しておきます。

・VCI:Verbal Comprehension index(言語理解指標)
 【類似】与えられた2単語の共通点を答える
 【単語】絵を見て名前を答える/与えられた単語を説明する
 【知識】一般的な一問一答形式の問題に答える

・PRI:Perceptual Reasoning index(知覚推理指標)
 【積木模様】複数の色付き立方体を見本と同じに並べる
 【行列推理】規則を持った図形セットの欠損部分を補完する
 【パズル】見本図を完成させるパーツを選択肢の中から選ぶ

・WMI:Working Memory index(ワーキングメモリー指標)
 【数唱】口頭で与えられた数列を覚える
 【算数】口頭で与えられた算数の文章題を暗算する

・PSI: Processing Speed index(処理速度指標)
 【記号探し】記号群の中から目的の記号を探す作業を大量にこなす
 【符号】変換表に従って数字を記号に変換する作業を大量にこなす

 

理論型のテストでは「どのタスクとどのタスクが同じグループに入るか」は理論的に決定されましたが、WAISの上記のグループ分けは違います。

「主成分分析」と呼ばれる統計的手法によってグループに分けられているのです。

 

簡単に言えば、

・知能テストにおいて各課題のスコア同士が大なり小なり相関する

・相関の強いもの同士は部分的に共通した能力を見ていると考える

このような前提で、各問題のスコアを一度バラバラに扱い、それらの中で統計的に相関が高いものをグループ分けしたのです。

 

WAISが「実証的」で「統計的」だという意味が分かって頂けたでしょうか?

 

尚、現在の日本語版WAISは2018年にリリースされたWAIS-IVが最新版です。

それまでのWAIS-IIIからアップデートしたところをかいつまんで挙げると、

・計測可能なIQが70~130から40~160へと拡大された
・妥当性を維持しつつ、全検査に要する時間が短縮された
・「言語性IQ(VIQ)」「動作性IQ(PIQ)」を廃止した
・従来のVIQはVCI、PIQはPRIが相当するものとみなされる

といった変更点が大きなものです。

 

米国ではWISCは既にVがリリースされ、WAISも来年にはリリース見込みです。しかし日本版を作るには更に統計的な計測や調整を日本でやり直す必要があるため、これが日本に入ってくるにはまだ数年かかると思います。

今後の改訂内容や、そこで取り入れられている「CHC理論」については、また機会があったらご紹介しようと思います。

 

今回はここまで。

 

※2020/1/15 WAISとWISCの最新版について混同している記述があるとの御指摘を受け、当該記述を修正いたしました。御指摘頂きましたばりすたさんに感謝申し上げます。

おわりに

★ひとことまとめ

1. 心理学で言う「知能テスト」の範疇は実はかなり広い

2. テストには集団式と個別式があり、それぞれ一長一短

3. WAISはボトムアップで統計的に構築された知能テストである

 

★参考文献

・書籍

1.Earl Hunt: Human Intelligence(2010, Cambridge University Press)

 

★もっと知りたい人向け

村上 宣寛:

IQってホントは何なんだ?

日経BP, 2007

 

以前の記事でも一度紹介しました。

BinetからWechslerの知能テストの歴史や理論について、日本語で書かれた数少ない読み物です。

こちらの記事で紹介した「IQの算出法」についても触れています。

 

Stephen Jay Gould (原著), 鈴木 善次 (翻訳):

人間の測りまちがい―差別の科学史 <下>

河出書房新社, 2008/6/4

 

既に述べてきたとおり、「大勢の人の知能を一斉に測るという試み」には、短いながらも紆余曲折の歴史があります。

本書はこの歴史的・社会的側面を踏まえつつ、科学的な面もよく解説しています。

上で述べた「因子分析」についても科学史に沿って丁寧に説明されていますね。

上下巻構成ですが、知能テストに関する話が読みたい方は下巻から読み始めて大丈夫です。

 

★この研究会について

以下の書籍の輪読会をインターネット上にて定期開催しています。

Earl Hunt: Human Intelligence(2010, Cambridge University Press)

 

本記事は輪読会の内容を元に、メンバーのトークも盛り込んでサマライズしたものです。

トピックや話の流れは上記のテキストを踏襲していますが、内容は再解釈の上で大幅に加筆や再編を加えています。

 

なお、研究会に参加をご希望の方はこちらの記事をご覧ください。

 

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狐太郎

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