【書評】恐怖の哲学 ホラーで人間を読む

【書評】恐怖の哲学 ホラーで人間を読む

【書評】恐怖の哲学 ホラーで人間を読む

 

恐怖の哲学 ホラーで人間を読む.

戸田山和久,

NHK出版新書, 2016/1/7

 

 

 

BACKGROUND ――対象

 「ホラー映画」という題材に潜む奥深さを「哲学的」に解き明かそうという本です。

 

 「恐怖」は「非常に原始的な心理」とされていますが、「恐怖」は哲学や科学でどのように解明されているのでしょう。「恐怖の本質」とは何なのでしょうか?

 また、「恐怖」がそれほどに根源的な心理であるなら、「ホラー映画」という「怖さを楽しむ」などという嗜好が人間だけで成立するのはどうしてでしょう?

 

 本書は、科学と哲学を横断的に利用して、「恐怖」という心理現象を解明します。

 そして、「恐怖」を通して、「哲学」のより深い議論まで踏み込んでいきます。

 

 著者の戸田山和久氏は科学哲学や心の哲学で有名な方ですね。

 普段は硬派な本を出している方なので、この本を見かけた時に「こういうイロモノも書くのか!」と驚いて思わず買ってしまいました。

 

 

METHODS ――目次

I 恐怖ってそもそも何なのさ?
第1章 恐怖の原型としての「アラコワイキャー体験」
第2章 アラコワイキャーのどれが重要なのか?――「部分の問題」を考える
第3章 これが恐怖のモデルだ!――身体化された評価理論
II ホラーをめぐる3つの「なぜ?」
第4章 まずは「ホラー」を定義しちゃおう
第5章 なぜわれわれはかくも多彩なものを怖がることができるのか?
第6章 なぜわれわれは存在しないとわかっているものを怖がることができるのか?
第7章 なぜわれわれはホラーを楽しめるのか?
III 恐怖の「感じ」って何だろう?――ゾンビといっしょに考える
第8章 哲学的ゾンビをいかに退治するか?
第9章 「意識のハードプロブレム」をいかに解くか?

 

RESULTS ――所感

 一見してイロモノっぽいタイトルではありますが、中身はかなり本格的な心の哲学・認知科学の議論がなされています。

 

 「ホラー」という題材を扱いつつ、「心の哲学における心身二元論の基本的な論点」を非常にスマートにまとめているのです。そういう意味では、「心の哲学」の入門書と言っても遜色ない内容でしょう。

 このことからも、「恐怖」が多くの機構に支えられた現象であることがよくわかります。

 「恐怖」は、「身体」と「心理」、「行動」と「主観」が調和した現象なんですね。

 

 こうした議論を展開する中で、本書ではもう一つの柱である「ホラー作品」の話にこまめに立ち寄り、実例を取り上げて解説しています。「様々なタイプのホラー作品を分析する」という点では「ホラー論評」なのですが、これがホラー論評であるだけでなく、「心の哲学の論証対象」であり「応用例」にもなっているわけです。

 このように、「ホラー作品」というユニークな題材を用いながら、議論はどんどん深まっていきます。

 認知科学から精神分析や心の哲学など、幅広い分野を巻き込みながら話題を展開していくので、まずその知見の広さ・深さに舌を巻きます。しかし、それが散逸的な列挙ではなく、きちんと論理の展開に沿って配置されているため、雑多な印象は全く受けません。

 この哲学的議論の部分は、単に「ホラー論評」として読む人にとっては「冗長」と捉えられかねない部分ですが、「ガチ」な哲学的議論に興奮を覚えるタイプの人には堪らない、本書の醍醐味となっています。

 

 気が付けば、「恐怖の反応」第1章に端を発した議論は、「哲学的ゾンビ」(ゾンビもホラーの登場キャラだ)を超えて意識の「ハードプロブレム」まで切り込んでいきます。

 この「基礎知識を与えながら自分の論を提示していく」流れもかなり絶妙。入門書のように明快でありながら、無味ではなくちゃんと「話の筋」があるので飽きさせません。

 

 また個人的な所感として、別の入門書で感じた「唯物論的立場からの議論の不十分さ」をかなり的確に補完しており、この点でも「入門書より入門書らしい」と感じました。なお、筆者の立場としては物質主義寄りで、「反物理主義ゾンビは退治する、反機能主義ゾンビとは共存する」とまとめられております。

 筆者の論に賛同するにせよ反対するにせよ、心身問題の現代的な論点に本書1冊でかなり触れることが出来ているのは確かです。

 

 「哲学」「心理学」「脳科学」などと銘打った新書はキワモノが多く、雑学とデマをハイブリッドしたような本ばかり見かけますが、本書はそれらとは一線を画す内容です。このことは巻末の「参考文献」の内訳からも一目瞭然ですね。

 

CONCLUSIONS ――結語

 ホラー作品の楽しみ方として、「『ホラー作品を楽しむ心理』を考察して楽しむ」という楽しみ方が一つ増えました。しかし、ただの「ホラー論評」と思ったら大間違い。

 科学と哲学を横断しつつ俯瞰する、本格的な「心の哲学」の入門書でした。

 

 こんな人にオススメ

★哲学・心理学に興味のある人
★ホラー映画が好きな人
★「哲学的ゾンビ」が気になる人

 

 

恐怖の哲学 ホラーで人間を読む.

戸田山和久:

NHK出版新書, 2016/1/7

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狐太郎

読んでは書くの繰り返し。 学んでは習うの繰り返し。

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