知能を科学の目で見るには?【未知会ログ】

勉強会ログ

「知能について科学的に考えるためにはどんな学問を基礎にすればよいのか」というのはチョット答えにくい問題です。

大学の学部・学科を眺めてみても、「知能学科」なんてのはありません。

 

「知能を研究する」ためのアプローチは複数存在します。

Earl Hunt氏は著書『Human Intelligence』の中で、知能へのアプローチを3つの異なるレベルに分けました。

1.Psychometric level (心理測定レベル)
2.Information-Processing level (情報処理レベル)
3.Brain level (脳レベル)

今回はこれに倣って、「知能を解明する学問」について整理してみましょう。

Psychometric level

一番最初に挙げるのは「psychometric」なアプローチ。

直訳するなら「心理測定」といったところです。

「心理学」の守備範囲として最も典型的なのはここですね。

 

ここまでに述べてきた「知能をテストのスコアとして数値化しよう」という試みはこの範疇に含まれます。

人の心は「直接的な観測」が出来ないので、「心の観測結果」に最も近いのは「心理テストのスコア」である、と考えるわけですね。

 

・知能を上手く抽出する検査課題とは?

・スコアはどのように集計・分析されるべきか

・その結果から何が分かるのか

こうしたアプローチはpsychometricの範疇であると言えます。

 

このアプローチの肝要なところは、「心」というプロセスが「ブラックボックス」でもいいということです。

「入力」に対する「出力」を集計して集約する、という営みは極めて実証的なアプローチだと言えるでしょう。

実測に基づいているだけに、結果は現実に応用しやすい形で解釈できるのも強みの一つです。

 

心理学教育学はこうしたアプローチの研究を得意としています。

 

Information-Processing level

2番目は「Information-Processing」つまり「情報処理」からのアプローチです。

これは現代的に言えば「認知科学」に相当すると思います。

 

例えば「言語の読解力」「読解力テストの点数」で代表して扱うのが「心理測定」のやり方だとしたら、「情報処理」の考え方はそこから更に一歩仮説を進めます。

「読解力」という単一の機能を、例えば「ワーキングメモリ」や「単語知識」といった「より要素的な能力とその組み合わせ」還元して解釈できないか……と、「情報処理」のアプローチでは考えるわけです。

こうした「モデル構築」こそがこの立場の真骨頂とも言えるでしょう。

(とはいえ、心理測定のアプローチでも因子分析など種々の統計的手法でモデルを構築することはよくあります。この「モデル化」というアプローチは、先述の心理測定のアプローチと完全に分離できるものではありません)

 

時に、「『モデル』はあくまで『モデル』であり、そんなものは現実ではない」という批判もあります。

しかし、「脳の中の知的処理」は直接に観察できなくとも、先述の「心理測定」の結果や、後述の「脳」の知見は実証的に示されます。

モデルは「これらの『隣接分野の実証的データ』を如何に適切に解釈・予測できるか」という観点で比較・検討という洗礼を受けることになります。

この意味で、認知科学の「モデル」は「反証可能性」を十分に持った「科学」であると言えるでしょう。

 

こうした「モデル構築の科学」は、理工学の中でも計算機科学の発展とともに分野として確立してきた経緯があります。

「人工知能の研究」は、翻って「知能の研究」にも大いに影響を与えてきたわけですね。

 

また、日本では「認知科学」を掲げた学部組織を持つ大学は少ないですが、認知科学を扱う研究者は心理学、言語学、哲学、生物学、といった様々な分野に散在しています。

 

Brain level

最後は「脳」です。

つまり「神経科学」の観点ですね。

 

「あらゆる心理活動は脳に由来する」と考えるならば、「脳の全てが分かれば、知能の全てが分かる」と言えます。言えるはずです。

その目標を部分的に成功させているのが、「脳の活動」から「その人が何を見ているか」を検出する研究や、「脳の特定部位の体積」と「言語運用能力」を結びつけるような研究であると言えます。

 

しかし、「脳の全てが分かる」なんてまだまだ夢の話

現実はそんな簡単にはいきません。

 

・そもそも機械では脳の情報のごく一部しか取り出せない

・どんな知能が脳のどこにどう反映されているか分からない

・取り出した情報を正確に解釈する方法を持っていない

といった、まだまだたくさんの問題が未解決です。

 

脳から情報を取り出す手段としては、「CT」「MRI」「脳波」といった検査装置がありますが、これらは一長一短です。

いずれにせよ、これらの検査で得られる「脳のデータ量」「神経細胞1つ1つがミリ秒単位の発火で生み出している情報量」には程遠いわけですから、こうしたデータは脳の情報を「極めて荒い解像度で見ているもの」に過ぎません。

 

裏を返せば、「脳から得られる限られた情報から、知能をどれだけ予測できるか」というのが当面の課題とも言えます。

これを「逆問題を解く」と考えればモデルの問題に還元されるわけで、先述の「情報処理」にはこうした方向から合流することになります。

 

「脳」を直接扱う研究は医学生物系の理学・工学が主として行っていますが、先述のような事情から近年は機械工学や計算機科学とも非常に親和性の高い分野になってきています。

 

以上、「知能=人の知的活動」を研究する分野を

Psychometric level≒心理学
Information-Processing level≒認知科学
Brain level≒神経科学

に大きく分類して、概観してきました。

とはいえ、これらはあくまで「アプローチの違い」であり、共に「知能」を解明しようとしていることを忘れずにおきましょう

「心理学」はヒトの行動を記述し、「神経科学」は脳の挙動を解明し、「認知科学」はそれらを上手く解釈できるモデルを構築する……といった相乗効果で知能研究が発展していくことが理想ではないでしょうか。

 

今後も各分野で知能の研究が発展することを期待つつ、今回はここで筆を置くことにします。

 

おわりに

★ひとことまとめ

1. 「心理測定レベル」は知能検査の結果を扱う

2. 「情報処理レベル」では知能をモデル化する

3. 「脳レベル」では脳と知的活動の繋がりを捉える

 

★参考文献

・書籍

1.Earl Hunt: Human Intelligence(2010, Cambridge University Press)

 

★もっと知りたい人向け

サトウ タツヤ(著), 渡邊 芳之(著):

心理学・入門

有斐閣アルマ, 2019/9/14

 

心理学のアプローチを知りたい人にオススメの入門書。

「学問としての心理学」を広く俯瞰できる本で、「まず一冊目はここから」という感じです。

予備知識が無くても読めるので、非専門分野の人や高校生が「心理学ってこんなことをやってるのか」というイメージを持つのに丁度いいと思います。

 

金沢創(著):

他者の心は存在するか

金子書房, 1999/10

 

「『モデルを作る学問』としての『認知科学』」という見方を非常にシャープに描き出している本です。

やや古い本ですが、「そもそも認知科学とは何か」「モデルが科学に対して持つ意義とは」といった本質的な議論は全く古びるものではないので、現代でも十分に読む価値のある一冊だと思います。

 

小泉英明(著):

脳の科学史

角川SSC新書, 2011/3/10

 

一般向けの「脳の本」と言うと、せいぜい「これをやると脳のここが活性化します」というくらいの触れ方が多いです。

「脳の研究」というのが、「実際にどんな装置で」「何を測ることで」行われているのか、という話はなかなか出てきません。

この本ではMRI開発に携わった専門家が、「脳を解明するための研究手法」という観点で脳研究史を非常に面白く解き明かしてくれます。

生物や物理の基本知識がないとやや読みにくいかもしれませんが、かろうじて一般書といえるレベルまで敷居を下げてくれています。

 

★この研究会について

以下の書籍の輪読会をインターネット上にて定期開催しています。

Earl Hunt: Human Intelligence(2010, Cambridge University Press)

 

本記事は輪読会の内容を元に、メンバーのトークも盛り込んでサマライズしたものです。

トピックや話の流れは上記のテキストを踏襲していますが、内容は再解釈の上で大幅に加筆や再編を加えています。

 

なお、研究会に参加をご希望の方はこちらの記事をご覧ください。

 

この記事を書いた人

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木村勝哉

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コメント

  1. […] 前回の記事では「知能」の研究の3つのアプローチを紹介しました。 […]

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