【書評】甲賀忍法帖

【書評】 甲賀忍法帖

 

甲賀忍法帖

山田風太郎,

角川文庫, 2010

(初刊行は1959年)

BACKGROUND ――対象

 「敢えてこの時代に紹介したい作品」ということで持ち出してみました。

 超能力を駆使する忍者たちがひたすらに能力バトルするお話であります。

 「なんだ、またそういうラノベか」って?

  いえいえ、これは「ライトノベル」なんて言葉よりもっとずっと古い作品です。

 この作品が書かれたのは昭和33年。

 「超人的な能力を持ったキャラたちが戦うストーリー」は今ではアニメでもスマホゲームでも最もオーソドックスなものですが、その元祖と言われるのがこの山田風太郎の『忍法帖シリーズ』。そして本作は、その忍法帖シリーズの最初の作品です。

 半世紀前の作品でありながら、今もアニメやマンガでリメイクされて高評価を得ています。

 (なんでバジリスクタイムだけあんなに有名になってしまったんでしょうね……)

 ストーリーは、簡単に言えば「ニンジャバトルロワイヤル」です。忍の名家が徳川家の跡継ぎ争いに巻き込まれ、代理戦争の形を取って伊賀・甲賀の忍者が殺しあうことになります。

 最初に思い切り二人の能力者を戦わせ、そして「十名対十名の忍者による対決」という構図を打ち出すという、強烈に作品コンセプトを叩きつけてくる序盤で物語が始まります。最初の数ページで合うか合わないか分かるという、あまりに現代ラノベ的な開幕。

 そして現代っ子ならば、ここに『Fate』系列の源流を見出さずにはいられないでしょう。

 記念碑的作品ではありますが、知ったかぶるだけではあまりに惜しい作品。

 でも、一度読んだらあなたも必ず言いたくなります。

 「それ、山田風太郎が既にやってるよね」

 ……厄介オタクにならないよう、くれぐれも注意してお読み下さい。

METHODS ――あらすじ

 家康の秘命をうけ、徳川三代将軍の座をかけて争う、甲賀・伊賀の精鋭忍者各十名。官能の極致で男を殺す忍者あり、美肉で男をからめとる吸血くの一あり。四百年の禁制を解き放たれた甲賀・伊賀の忍者が死を賭し、秘術の限りを尽くし、戦慄の死闘をくり展げる艶なる地獄相。恐るべし風太郎忍法、空前絶後の面白さ!

――「BOOK」データベースより

RESULTS ――所感

 パイオニア的な位置づけの作品なので、私も最初は「有名だし読んでみるか」くらいの気持ちで手に取ってみたわけですが、あまりに面白くて圧倒されました。

 現代のライトノベルと比べても遜色無い、それどころか、現代の視点で見てもなお非常に優れた娯楽小説でした。

 キャラクターの能力や個性をよく活かした戦闘や駆け引き、物語を展開させていくテンポ。

 いずれも、近年絶賛されている作品でもこれほどはなかなか無いでしょう。

 アニメの『バジリスク~甲賀忍法帖~』は現代のリメイクだけあってかなり脚色が入っているのだと思っていましたが、アレはほとんどそのまま原作通りで勝負してアレなんですね。

 山田風太郎がいかにラノベ史の特異点であるか、この一作でも痛感させられます。

 文体も特に違和感を覚える古さはありませんでした。現代の小説を普通に読めている人ならさらさらと読めるかと思います。

 内容にも、ネタバレにならない程度に触れておきましょう。

 少年漫画や続き物のラノベと違って、後から能力やキャラを付け足したりせずに、最初に提示したキャラと設定でストーリーを巧妙に打ち回しており好感が持てます。

 読んでいる間は「今度はそう来たか!」と思わされることの連続なのに、読み終わってみると「このキャラがこのキャラを討ち、今度はここで行き詰まる」という順番がこれ以上ないほどにピッタリとハマり合っています。

 最初は「十人対十人」はあまりに多いと思っていたのに、読み終わってみると伊賀の十人と甲賀の十人の名前と、誰が誰に倒されたかをそらでも言えてしまう。そのくらい個々の能力勝負が印象深い。

 また、能力バトルもさることながら、ストーリーの仕立ても上々です。「両家の血みどろの争い」と「望まぬ争いに引き裂かれた男女」という古典的な悲劇の構図を、あまりに新奇性の高い展開と上手く調和させています。

 時代小説といえど、これは侍ではなく忍者の話でありまして、かなり戦略はえげつないものが飛び出てきます。しかしその「えげつない戦い」の中でこそ際立つキャラ性を上手く物語に回収していくのです。

 能力忍者バトルということで、少し前だと『NARUT○』あたりを引き合いに出す人も多かったですが、少年漫画と違って敵も味方もメインキャラがガンガン死ぬし、拷問あり強姦ありの外道だらけだし、それでいながら主人公たちはどこまでもロマンチストだし、物語の質として本作はかなり異質な印象を受けました。

 当初は「きっと最後にはみんな死ぬし、きっとそれで二人の想いもかなわないのだろうな」と高をくくって読んでいた私でも、ラストシーンは(ベタでありながらも)グッと来るものがありました。

 二人の心の裡だけに秘められた、最終対決の真相。これがあまりに良かったんですが、ここには敢えてその良さを書かずに置くことにします。

 極めて個人的ながら、本作の読後に陰陽座の『甲賀忍法帖』を聴くと非常に良いですね。

 作中のあれこれを回想するにふさわしい一曲であること。

 先に曲を知っていましたが、本作をイメージして書かれた曲なんだなと知ってからはまた違った味わいで聞けるようになりました。

CONCLUSIONS ――結語

 能力バトルモノの記念碑的作品ではありますが、歴史的価値よりも純粋に「読んで熱くなれる伝奇小説」といった感想です。「そうそう!バトルモノってこういうのが熱いんだよ!」という展開をこれでもかと言うほど詰め込んで、しかも冗長ではない完結性。

 つまり非常に完成度が高い。

 そして、山田風太郎作品に入りたいと思っている人の「最初の一冊」にもピッタリです。

 山田風太郎氏の作品が「当時において先進的だった」だけでなく、現代においてもなお「伝奇バトルモノを書くクリエイターは彼の影と戦い続けている」ということが良く分かります。

 源流でありながら一つの完成形と言っていい作品でしょう。

 こんな人にオススメ

 ★「山田風太郎」が気になりつつ、まだ一冊も読んでいない人

 ★『Fate』的な能力バトルロワイアルで心躍る人

 ★トンチキ理論のトンデモ能力者が出るラノベが好きな人

甲賀忍法帖

山田風太郎,

角川文庫, 1998

 

Kindle版ならこちらが安いのでオススメ。

甲賀忍法帖

山田風太郎,

角川文庫, 2010

文庫版ならこちらの方が安いです。

装丁も個人的にこちらの方が好きなので、紙書籍なら断然こちらをオススメします。

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木村勝哉

高学歴高IQの理系アラサー婚活女子です。嘘です。 「全学問の素人」を標榜しています。 文系学問を中心に、「人間」と「社会」についてよく喋ります。
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