【学習】試験前日のあなたに睡眠が最も重要である3つの理由(+α)

【学習】試験前日のあなたに睡眠が最も重要である3つの理由(+α)

大学受験生は今週末がセンター試験に当たりますね。

試験前日の必勝法というと、皆さん一家言ある方も多いかもしれません。

私が強く勧めるのはシンプルです。

「とにかく良く寝ろ」

 

これに納得頂けたら、以下の記事は読む必要がありません。
(興味が向いたら4だけどうぞ)

今回は「試験前日の睡眠がスコアを上げる」根拠と、眠る前の工夫を紹介します。

 

重要な科目ほど睡眠不足に弱い

まずセンター試験に関して言えば、睡眠不足を避けなければいけない最大の理由は

「国語・数学・英語の配点が高いから」です。

なぜこの3科目が特に睡眠不足の影響を受けやすいのか、データで示していこうと思います。

 

皆さんも経験的にお分かりだと思いますが、睡眠不足では「頭がぼーっと」します。

睡眠不足が「処理速度」を下げることを実験で示した結果がこちら。

Belenky G, Wesensten NJ, Thorne DR, Thomas ML, Sing HC, et al. (2003) Patterns of performance degradation and restoration during sleep restriction and subsequent recovery: a sleep dose-response study. Journal of Sleep Research 12: 1-12.

これは「手に持ったボタンをライトに従って正しく押す」というシンプルな作業です。

睡眠時間は■>>○の順で短くなり、横軸のE1~E7が睡眠不足の期間に対応します。

縦軸が回答の速度です。

「睡眠3時間=○」「睡眠5時間=」という「睡眠不足の群」では、1日目から明らかに処理速度が低下しています。

こうした「処理速度の低下」は、数学英語のように「時間が点数に直結する試験」では致命的となるでしょう。

 

また、「睡眠不足によってワーキングメモリが低下する」ことを示した研究もあります。

Steenari M-R, Vuontela V, Paavonen EJ, Carlson S, FjÄLlberg M, et al. (2003) Working Memory and Sleep in 6- to 13-Year-Old Schoolchildren. Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry 42: 85-92.

「ワーキングメモリ」自体について詳述すると長くなるので省きますが、これは文章を読んで理解する際にも使われる能力であることが多くの研究で示唆されています。

つまり、これが低下すると国語や英語などで「読解力」が下がる、といえるでしょう。

 

「数学」「国語」「英語」はいずれも入試における重要科目。

これらのパフォーマンスレベルを下げる「睡眠不足」は何としても避けなければなりません。

 

暗記科目でも前日の睡眠は影響する

では、「暗記科目」とされる「社会」「生物」は影響を受けにくいのでしょうか?

国・数・英より相対的に影響は少ないと予想されますが、それでも影響するでしょう。

 

その理由として単純なのは、「ケアレスミスの確率が上がる」ことです。

先程の研究で、「寝不足でミスが増える」ことを表したグラフがこちらです。 

Belenky G, Wesensten NJ, Thorne DR, Thomas ML, Sing HC, et al. (2003) Patterns of performance degradation and restoration during sleep restriction and subsequent recovery: a sleep dose-response study. Journal of Sleep Research 12: 1-12.

これは縦軸がミスの頻度ですね。

横軸の見方は先程と同じで、睡眠時間も■>>○の順です。

たった一日の睡眠不足といえども、7時間以上眠った人と5時間以下しか眠らなかった人とでは翌日に2~3倍もミスの率に差が出ることがわかります。「ケアレスミス」が増えることは、あらゆる試験において足枷となるでしょう。

ミスをしたくなければ十分に睡眠を取りましょう。

 

また、以下の論文では他にも様々な項目で、能力低下が起きることがまとめられています。

Curcio G, Ferrara M, De Gennaro L (2006) Sleep loss, learning capacity and academic performance. Sleep Med Rev 10: 323-337.

 

 

睡眠不足は免疫系を弱らせる

学力の他に、免疫力低下は受験生にとって致命的です。

睡眠時間を削ることで「免疫力が低下する」ことが、様々な研究で示されています。

 

試験会場では多くの人が一つの空間で数時間を過ごします。

中には体調不良を押して来ている人もいるでしょう。

会場でインフルエンザに感染などしたら、後に控える試験に影響してしまいます。

 

感染に対するリスクを減らす観点からも、睡眠を取ることを強くお勧めします。

 

また、「過敏性腸症候群」も睡眠不足が悪化させると言われています。

耳慣れない病名ですが、いわゆる「ストレスでお腹が痛くなる」というアレです。

このような体質の方は、特に睡眠時間を取っておくべきだと言えましょう。

試験時間中に「腹痛でトイレに行くリスク」は下げておくに越したことはないです。

 

睡眠不足が与える生理的影響については以下のレビューによく整理されています。

Mullington JM, Haack M, Toth M, Serrador JM, Meier-Ewert HK (2009) Cardiovascular, inflammatory, and metabolic consequences of sleep deprivation. Prog Cardiovasc Dis 51: 294-302.

Murphy K, Delanty N (2007) Sleep deprivation: A clinical perspective. Sleep and Biological Rhythms 5: 2-14.

 

睡眠前にやるべきことは?

ここからは私見になります。「使えそう」と思った方だけお役立てください。

 

睡眠は学習にどう作用するか ――記憶のモデルで考える

こちらでも述べた通り、「睡眠前に暗記をやると記憶に残りやすい」という性質があります。

そこで、「暗記用ノート」を作って、自分が「何度やっても忘れてしまう」知識だけを厳選してコンパクトにまとめます。これを30分程で見返したら、そのまま眠るようにしましょう。

「暗記用ノート」は一朝一夕で出来上がるものではないので、今作っていない人は本命の試験までに作って、直前一週間くらいは毎晩それを見て眠るようにすると良いでしょう。

(この「暗記用ノート」は本番試験直前の休み時間に「仕上げ」としても使えます)

 

ちなみに、「自分が特に覚えていないことを探して暗記用にまとめる」という行為自体も、「記憶のメタ認知(=メタ記憶)」を促す、という副次効果があります。

 

「暗記用ノート」はフラッシュカードタイプでも良いですし、ルーズリーフにまとめるのでも良いと思いますが、ポイントは「電子媒体ではなく紙媒体にすること」です。

なぜなら「就寝前に見返すためのもの」だから。

電子媒体のフラッシュカードは便利ですが、画面の発光がメラトニンに作用して睡眠を乱してしまいます。眠前学習には、手書きのものか印刷したものを勧めます。

(睡眠前の電子機器使用による問題についてはこちらもご参照下さい→Cain N, Gradisar M (2010) Electronic media use and sleep in school-aged children and adolescents: A review. Sleep Med 11: 735-742.

 

また、試験日には早起きになることが多いので、普段通り(またはそれ以上)の睡眠時間を確保しようとすると、普段よりかなり早く寝なければいけないと思います。

 

寝付きを良くするために簡単にできる方法としては、

・スマホなどの画面を極力見ない

・熱すぎない程度のシャワー・入浴

・就寝前にはココアなどを軽く一杯(※)

 (※カフェインが少なく、少量の糖分のある、温かい飲料であれば良い)

などがあり、オススメです。

いずれも科学的に実証されている方法です。

 

 

長々とまとめましたが、結論としては

「試験前日になったら、ジタバタするより早く寝ろ」

本記事の論旨は以上です。

 

★ひとことまとめ

1.睡眠不足は国語・数学・英語への影響が大きい

2.ケアレスミスを減らすためにも睡眠を取れ

3.試験会場で風邪をもらいたくなければ前日よく寝ろ

4.眠前にオススメの習慣は「紙の暗記帳」。スマホは見るな。

 

☆このトピックにオススメの本

宮崎 総一郎(著),‎ 原田 哲夫(著),‎大川匡子(監修, 監修)

伸びる子どもの睡眠学.

恒星社厚生閣, 2009

 

睡眠の仕組みから、知能に影響する睡眠習慣まで、非常にやさしく解説している本です。経験的に何となく「学習に良さそう」と思われる生活習慣でも、裏付けがデータで与えられているのは面白いですね。

実践できるノウハウが多く、実はなかなか実用的です。

 

櫻井武 :

睡眠の科学・改訂新版 なぜ眠るのか なぜ目覚めるのか.

ブルーバックス, 2017

 

こちらは前回も紹介した本です。「睡眠のメカニズム」の理論的な側面から、日常的な「眠りやすくする工夫」などについても記載されています。

前提知識としては高校生物レベルを推奨。

 

AGF ブレンディ スティック 抹茶オレ 7本×6箱

こちらは完全に勝手なおすすめ。

「少量の糖分を含みカフェインをあまり含まない温かい飲料」として、私はこれを時々飲んでいました。(今も飲んでます)

抹茶と言いつつカフェインはごく少量なので、おすすめです。

 

参考文献

書籍

櫻井武 : 睡眠の科学・改訂新版 なぜ眠るのか なぜ目覚めるのか. ブルーバックス, 2017

論文

1. Mullington JM, Haack M, Toth M, Serrador JM, Meier-Ewert HK (2009) Cardiovascular, inflammatory, and metabolic consequences of sleep deprivation. Prog Cardiovasc Dis 51: 294-302.
2. Balkin TJ, Rupp T, Picchioni D, Wesensten NJ (2008) Sleep loss and sleepiness: current issues. Chest 134: 653-660.
3. Murphy K, Delanty N (2007) Sleep deprivation: A clinical perspective. Sleep and Biological Rhythms 5: 2-14.
4. Alhola P, Polo-Kantola P (2007) Sleep deprivation: Impact on cognitive performance. Neuropsychiatric Disease and Treatment 3: 553-567.
5. Curcio G, Ferrara M, De Gennaro L (2006) Sleep loss, learning capacity and academic performance. Sleep Med Rev 10: 323-337.
6. Steenari M-R, Vuontela V, Paavonen EJ, Carlson S, FjÄLlberg M, et al. (2003) Working Memory and Sleep in 6- to 13-Year-Old Schoolchildren. Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry 42: 85-92.
7. Belenky G, Wesensten NJ, Thorne DR, Thomas ML, Sing HC, et al. (2003) Patterns of performance degradation and restoration during sleep restriction and subsequent recovery: a sleep dose-response study. Journal of Sleep Research 12: 1-12.
8. Cain N, Gradisar M (2010) Electronic media use and sleep in school-aged children and adolescents: A review. Sleep Med 11: 735-742.

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