最近とにかくAIウェブサービスの発展がすさまじいですね。
先日リリースされたばかりのBingも話題ですが、それ以外にも「アレがいい」「コレもすごい」と、とにかくあちこちで新しいツールが登場して非常に目まぐるしい状況です。
私自身、本当ならじっくり腰を据えて文献を読んでいたいところですが、かといって全く何もしないでいると「もしかして私だけ知らないうちに超便利ツールを見逃して損しているのでは……?」などという気がしてきて、心中穏やかでないもので……。
というわけで一念発起して、一週間ほどかけて現在有力視されているWebサービスを色々さわってみました。
そして、「大体これを押さえておけば大丈夫」というところをまとめることにしました。
私のような「流行りモノを追いかけて時間を使いたくないけど、何もしないでいるのも落ち着かない」という人を一人でも救いたい、というのが今回の趣旨です。
流行りモノ紹介にありがちな「あれもこれも」ではなく、むしろ「手を出しすぎないで済む」ような記事を心掛けています。(と言いつつ長くなったので前後編に分割してますが……)
おそらく現時点で最もミニマムなAI活用論かと思います。
想定読者層としては大学生・大学院生と書きましたが、「レポートや論文を書くためにこれから新規のテーマで論文を収集する人」であれば誰にでも使える部分があるかと思います。
なお、本記事の情報やスクリーンショットは基本的に執筆時点の2023年2月20日のものです。
紹介しているウェブサービスは機能や料金など含め流動的ですので、その時点での使用条件を確認することをお勧めします。
ちなみに記事内では「AI」という言葉を乱発してますが、おおむね「10年前のGoogle検索では出来なかったことをやってくれる情報サービス全般」くらいの意味合いで雑に使ってます。ご容赦を。
英語の壁を超える:DeepL
DeepL:定番の翻訳AI
学習データの偏りのため、最新のAIツールは基本的に「英語」で使うことで最大限にスペックを引き出せます。
しかし、キーワードを列挙して検索するのに比べて、「文章」で検索するとなるとますます英語力のハードルは高く感じられますね。
Bingのように日本語と英語でなるべく返答に差が出ないようにしているAIもありますが、モノによっては英語で質問しないと英語の文献をあまり取って来てくれないこともよくあります。
イマイチな結果が出た時に「質問文の作り方が悪いのか」「そもそも日本語で聞いてるのが悪いのか」が判然とせずにジタバタするのは時間の無駄なので、基本的には最初から英語で質問するクセを付ける方が良いかなと思います。
とはいえ、大学生くらいだと「あなたの疑問を英語で述べてください」といきなり言われても困るかと思うので、時には素直に翻訳ツールに頼りましょう。
機械翻訳は現状DeepLのほぼ一強なので、ここで迷う余地はあまり無いです。
【DeepL】https://www.deepl.com/translator
DeepLの短所は「無料版だと翻訳量に上限がある」ということ。
上記の「AIへの入力フレーズ(プロンプト)を作る」だけの用途で使う分には無料版の制限に容易に収まりますが、他の用途などでも多用する方は有料版を検討して良いかもしれません。
私自身はあまりやっていませんが、論文そのものを読むのにDeepLの英和翻訳を活用する人もいるようです。
また、大学など多くの人が共用する回線からアクセスすると、自分がDeepLを利用していなくても使用制限が誤作動して引っかかることがあります。
自分の大学がこれに該当してしまう場合は、大学からDeepLを使うのを諦めるか有料版を使う必要があるでしょう。
有料版ならプランを問わず無制限に翻訳できるので、オプション機能である「ファイルを翻訳」や「ファイルアップロード」を使わない限り一番安い有料プランで十分です。(それでも月額1000円なので結構高いのですが……)
ChatGPT・Bing・みらい翻訳:ピンチヒッターとして
ちなみに、ChatGPTやBingなどの会話AIも翻訳機能を備えています。
プロンプト作成の用途であれば翻訳のクオリティはそれほど問題にならないので、ちょっとした短文の英訳だけならこれで十分かもしれません。
それから私がDeepL以前に使っていた「みらい翻訳」というサービスがあります
【みらい翻訳『お試し翻訳』】https://miraitranslate.com/trial/
最近はガッツリ企業向けの有料サービスにコミットしているようですが、この『お試し翻訳』は今も生きているので、プロンプト作成なら文字数制限内でも支障なく使えます。
情報を集める:Perplexity AI・Elicit
英語の壁を越えたら検索ツールを使い始めましょう。
Perplexity:ソース付きの質問回答AI
「こんな文献が欲しいんだけど、何かある?」と質問するとソース付きで答えてくれるAI。
「Perplexity AI」は文章で回答を出してくれるので、「このトピックに関しては右も左も分からん!」という時に最初のとっかかりとして分かりやすいです。
【Perplexity AI】https://www.perplexity.ai/
試しに使ってみましょう。
トップページの検索ボックスにさっきの「Does musical training improve working memory?」を入れてみます
すると↑こんな感じで結果が出てきます。
イメージ的には論文のイントロっぽい体裁ですね。
下に引用文献のリンクがありますが、右の「View List」を押すと文献の概要も展開されます。
なお、一回で「これだ!」という情報がヒットしなかった場合、下の「Ask a follow up」にもう少し要望を追加してみましょう。
↓カタコトの英語でも割と普通に通じます。
「ウェブページではなく論文誌に載ってる論文」を出してほしいとき、マジックワード「DOIのある論文をちょうだい」は便利です。
(「DOI」とは、論文誌に掲載された論文に割り振られる固有のIDのこと)
Perplexity AIについてはこの辺のページも参考にどうぞ。
https://www.1st-net.jp/blog/perplexity-nihongo/
https://qiita.com/kokosan60/items/60279b9a416b6f8c6023
Elicit:論文検索に特化
一般的に、大学のレポートや学術論文ではウェブページを引用するとややインフォーマルとみなされるので、「論文だけを検索したい」という場面が結構あります。
そんな時には「Elicit」が便利です。
単に「論文誌の中から検索してくれる」というだけでなく、「論文」というフォーマットを活かした工夫がいくつかあります。
こんな感じで、最初から論文だけがピックアップされていますね。
左側のカラムは新しく付いた機能で、Perplexity AIみたいなナラティブレビューが出るようになっています。アカデミックAIもどんどんお互いの機能を取り入れていますね……。
論文のフィールドをクリックすると出てくるAbstractのポップアップ、これがElicitの強みの一つです。
右側に論文のAbstractの原文がありますが、左側には要点をピックアップした「Abstractのダイジェスト」とでも言うべきものが表示されています。
輪読会などに持っていく論文を見繕う際には重宝しそうな機能ですね。
(ただし稀に間違っていることがあるので注意。間違いを見つけたら指摘してあげましょう)
それから、検索結果のページにも論文アブストラクトのページにも「電波アンテナ」みたいなマークがありますね。
ここにカーソルを合わせると「Q1」というポップアップが出てきます。
この「電波マーク」の左にある斜字体は「論文誌」のタイトルです。
(賛否はあるものの事実として)論文誌には数値による「ランク付け」があります。
「Q1」というのは「Quartile 1」、つまり「その分野で上位4分の1に入る高ランクの論文誌」であることを示しています。(数値化の仕方はシステムによって少しずつ異なりますが、おおむね上位の論文誌は一致します)
もちろん、ランクの高い雑誌にも捏造論文は載りますし、ランクの低い雑誌にも重要な論文が載ることはありますが、全体的な傾向としてランクの高い雑誌の方が厳しい査読を経ています(そう見なされています)。
なので、「この分野については論文の良し悪しを自分で判断する自信がない!」という場合は「Q1」や「Q2」のマークがついた論文を中心に読むというのも一つの手です。
また論文執筆や学会発表の際には、「この研究に関連したQ1ジャーナルの先行論文すら知らない」となるとどんな目に遭うか分かりませんから、「とりあえず目を通しておく」という目安としてもこのアイコンは有用です。
それから、論文誌の名前の下に「208 Citations」とありますね。
これは「被引用数」とも呼ばれるもので、「この論文がどのくらい他の論文に引用されたか」を表しています。
個人的には「論文誌のランク付け」よりもこの「被引用数」の方が「同分野の研究者からの評価」を率直に反映していると思っています。
とりあえず「数字が大きいほど研究界に大きな影響を与えた論文である」という認識でほぼ問題ないと思います。
ただ、被引用数は「新しい論文は引用が少なく、古い論文は引用は多く」なりやすいという欠点があるので、単純に「被引用数の多い論文から順に読もう」とすると最新の重要論文を見逃す可能性があります。
出版から数年が経過していれば被引用数を目安に、直近2,3年の論文であれば掲載論文誌のランクを目安に、という感じで論文を読む前の判断をしている人が多いかなと思います。
そのほか、フィルターやソートなど「論文検索エンジンの定番機能」はほぼ一通り備わっています。
Elicitについてはこちらも参考にどうぞ。
【余談】多くの検索サービスをどう使いこなす?
論文検索AIサービスとして、ほかにも「Semantic Scholar」「consensus」といったサイトがあります。
【Semantic Scholar】https://www.semanticscholar.org/
【consensus】https://www.consensus.app/
Semantic Scholarについては、少し古いですが以下の紹介記事があります。
consensusはまだ日本語だとあまり丁寧な使用解説記事は見当たりませんね。
ちなみに最近出たばかりの「Bing」のAIチャットを学術用途で使えるかと思って試してみたのですが、結果として「学術用途ではイマイチ」だったので今回は紹介しません。
やはりBingはウェブページの検索を中心にしているようで、論文の収集精度やインターフェイスに力を入れている上記サービスに取って代わるものではなさそうです。
Bingは現時点ではあくまで「汎用ウェブ検索サービス」ということで、論文の検索なら上に挙げた論文検索特化のサービスに軍配が上がります。
なおPerplexity AIは論文もウェブページもカバーしてますが、それが良い場合と邪魔な場合があります。この辺は絞り込み方次第ですね。
私のオススメは「どれか一つのツールをメインに使い込んで、検索結果がイマイチだと思うときに他のツールにも頼ってみる」ことです。
というのも、後述する「芋づる式の論文収集」が上手くなってくると、AIでの検索は最初の入り口程度にしか使わないことも増えてくるんですね。
そうなると、「検索AIは最初に良いレビュー論文を1,2本教えてくれれば十分」という感じになるわけですが、「このトピックならこのレビューは外せないだろ」という文献は大抵どのツールもサジェストしてくれます。
というわけで、あんまりたくさんのツールを使い分ける必要性は無いかな、というのが結論です。
少なくとも、最初に頼るメインツールを一つに決めておけば、メインの経験値が溜まって検索能力が上がっていきますし、「どんな場合に他のツールを頼った方が良いか」も何となく分かってきます。それでいいんじゃないかと。
色々なツールに目移りしながら肝心の文献を読む時間が失われるのが一番損失なので、白馬の王子様を求めるのはほどほどにしましょう。
一応参考に、比較ページをいくつか紹介します。
https://note.com/genkaijokyo/n/n21831c4f0aa6
https://note.com/ku60nft/n/n5ee583734740
https://note.com/it_navi/n/n5442c89239cf
https://www.blog.studyvalley.jp/2021/12/06/cinii/
(「ツールを見比べるページ」を見比べている状況、何が何やらという感じですが……)
今もあなたが迷っているなら、とりあえず今一番興味のあるトピックをPerplexity AI・Elicit・Semantic Scholar・consensusの全部で検索してみて、インターフェイスやヒット文献が一番自分の好みに合ってたやつを今後使えば良いと思います。
私はPerplexity AIを基本で使うことにしてますが、これは追加質問での絞り込みの使用感が私に合っている気がしたからです。
前編はここまで。
後編では以下のトピックを取り扱う予定です。
3.情報網を広げる
4.論文を整理する
5.論文を読む
おわりに
★ひとことまとめ
2. 文献検索は「Perplexity AI」か「Elicit」が良さそう
この記事を書いた人
狐太郎
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