献血は身体にも良いかもしれない?【隙間リサーチ】

4 自然科学

数年前から、暇な休日にふらっと献血に行くようになりました。

かれこれ累計で20回以上になります。

(※途中で一回カードを無くしているので正確な回数は不明。現在のカードでは18回)

 

今更ながら気になったのが、

「習慣的に血を抜く」という行為は人体に何らかの影響を与えうるのか?

ということ

 

1回や2回ならともかく、2ヶ月に1回とかのレベルでコンスタントに血を抜いている人なら、有益にしろ有害にしろ、何らかの有意差が生じそうな気がします。

 

というわけで、今回は「献血に健康への影響はあるのか?」をリサーチしてみました。

「瀉血」という治療法

いきなりですが、「瀉血(しゃけつ) phlebotomy/ bloodletting」という言葉をご存知でしょうか?

ヨーロッパやアメリカでは19世紀まで広く行われていた治療法です。

詳しくはレビューをどうぞ。

DePalma RG, Hayes VW, Zacharski LR. Bloodletting: past and present. Journal of the American College of Surgeons 2007;205(1):132-44.

 

当時のアメリカでは、ホトンドの病気が「血液が悪さをしているせいだ」と結論付けられ、
かなり多くの病人が瀉血を受けていたようです。

 

アメリカ大統領「ジョージ・ワシントン」約2Lもの血液を「治療」として抜かれたことで有名。

そして死にました。

現代では、「病気よりも瀉血が原因で死んだのでは?」と言われています。そりゃそうだ。

 

現代から見ればほぼオカルトような治療なんですが、当時はヤブでも何でもない正規の医者が、病人から1リットル以上の血液を平然と抜いてたわけですね。

当然ながらこの「瀉血」はガンガン人を死なせました。

 

医学に科学のメスが入るようになって、ようやく「瀉血」は廃れます。

「ほとんどの場合、瀉血は病人を弱らせるだけだ」ということを人類が学習するまで、数千年の時間がかかりました。

現代では「瀉血」が治療として認められているのは一部の血液疾患だけです。

 

 

血液を抜くことのデメリット

大前提として、「血の抜きすぎは体に悪い」という話になります。

『アカギ』を読んだ方なら知っていると思いますが、血液を2Lくらい失うと多くの人は死にます

このため現代の日本の献血では、全血は最大でも400mLまでしか抜きません。

 

献血の直後の低血圧のリスクについても、毎回説明されるので、献血経験者はご存知かと思います。

「立ち上がる時はゆっくりと」
「トイレでは座って用を足す」
「直後に激しい運動をしない」

などなど、しつこいくらい言われますね。

献血後は急激に体内の血液が減るため、身体がそれに追いつかず血液循環のバランスが崩れることがあるようです。

※ちなみに、「採血で真っ青になって倒れる」という方が時々いますが、その手の多くは「血管迷走神経反射 vasovagal reaction」というやつです。
 これは「針を刺す時の痛み」に対して自律神経が過剰反応してしまうものであり、「血液を抜くこと」とは直接関係ありません。

 

では、「献血くらいの量の血液喪失で」「身体が馴染んだ後も残る影響」はあるのでしょうか?

 

献血の影響競輪選手で実験した論文があります。

Panebianco RA, Stachenfeld N, Coplan NL, et al. Effects of blood donation on exercise performance in competitive cyclists. American Heart Journal 1995;130(4):838-40.

 

この実験では、競輪選手から1単位の献血(日本の400mL全血に近い)をしてもらい、通常時と献血後に自転車をこいで酸素消費量や脈拍の変化を測定しました。

 

差がついたのは、最大負荷時の酸素消費量と仕事量でした。

献血前→献血2時間後で比較したところ、
最大酸素消費量[mL/min]:4854±206→4454±228
最大仕事量[W]:394±13→366±18
と、わずかながら低下していました。

更に、この低下は献血から2日後、7日後でもほぼ同等に続いていました

 

ただ、中等度の運動(心拍数が130-170程度になるくらい)では、
2時間後でも7日後でも献血前と比べて酸素消費量等に差はありませんでした

 

この論文の要点をまとめると、こういう話になります。

献血後には、「最大の身体運動能力」が少なくとも1週間は低下する。

ただし、「中等度の運動における運動能力」にはほとんど影響がない。

 

血を抜くと良いことがある?

では、血を抜くことはデメリットだけなのか?

実はそうでもないかもしれません。

 

「献血をしている人たちは普通の人より健康」というデータは、古いものでも結構あります。

Meyers DG, Strickland D, Maloley PA, et al. Possible association of a reduction in cardiovascular events with blood donation. Heart 1997;78(2):188-93.

しかし、こうした単純な観察研究だけでこれを論ずることは難しいです。

献血者には「健康の条件を満たす」「自分で献血に行こうと考える」といった種々のバイアスがあるので、大雑把に言って健康的・社会的なパラメータが平均より高い人たちに偏ってしまうことが容易に予想されます。

つまり、「献血する人は平均より健康でアタリマエ」なので、「血を抜いたから健康になったのかどうか」を検証するのがとても微妙な問題になってしまうのです。

 

と、いうわけで。

「ランダム化比較試験」「血を抜くことに生活習慣病予防の効果があるか」を検証した論文を紹介しましょう。

Houschyar KS, Lüdtke R, Dobos GJ, et al. Effects of phlebotomy-induced reduction of body iron stores on metabolic syndrome: results from a randomized clinical trial. BMC Medicine 2012;10(1):54.

 

この研究では、1回目に300mLの血液を抜き、4週間後に250mL~500mLの血液を抜いています。

つまり、1ヶ月間隔で2回弱の全血献血を行うのと近い条件です。

基準となるデータを血液を抜く前に取り、結果となるデータを6週間後(≒2回目の瀉血から2週間後)に取っています。

 

結果、血を抜いた人たちは「血糖」「血圧」「コレステロール」など、生活習慣病と関連するパラメータで有意な改善が見られました。

 

この研究は「ランダム化比較試験」なので、「献血をする人は普通の人より健康的にも経済的にも高水準の人が多いから~」といった交絡因子は入り込む余地がありません

 

「血圧も血糖も、脂質も良くなる」なんて欲張りすぎじゃない?

なんて思いますが、理論的にはそれなりに納得できる側面もあります。

 

そもそも「血液」というのは、「血球細胞と有機物の混ざった塩水」みたいなもんです。

もっと言えば、「製造に脂質とエネルギーと塩が必要な液体」ということです。

そして、「生活習慣病」の要因となりやすい生活習慣は、
大別すれば「糖と脂質の摂取が過剰(≒エネルギー過剰)」「塩分が過剰」のいずれかです。

こう考えると、「血液を抜く」ことで「生活習慣病の進行を抑える効果がある」というのは、それなりに合理的な現象のように思えます。

尚、上で紹介したランダム化比較試験の論文では、「血液を抜くことによる効果」「軽度の鉄分減少」と関連づけた考察も展開されています。興味のある方はどうぞ。

 

 

余談。

ざっとサーベイしていて思ったのは、「定期的な献血が与える影響」について、大規模なサンプルで決定的な結果を出した疫学調査は意外と見当たらないということ。

先に述べたように、「定期的に献血している人」は平均よりも健康な人が多いので、バイアスを排除するのが難しいのかもしれません。(あるいは、対照群の方を設定するのが難しいのかも……?)

あるいは単純に、「年に数回程度の献血」では効果量が小さすぎて有意差が出ない、ということかもしれません。

 

また、今回は生理学的な健康増進効果に焦点を当てましたが、心理系の論文を探すと、精神的に良い影響を与えるという統計は結構たくさん出てきます。

「自分の身体に針が刺さる」ということ以外にはそれほどデメリットは無いと思うので、ちょっとでも興味の出た方は献血に挑戦してみては如何でしょうか。

 

では、今回はここまで。

 

★ひとことまとめ

1. 現在では「瀉血」は一部の血液疾患の治療としてしか行われない

2. 血液を抜いた後1週間以上は「全力の時の運動能力」が低下する

3. 血を抜くことで生活習慣病が抑止されるかもしれない

 

☆このトピックにオススメの本

清水 茜:

はたらく細胞.

シリウスKC, 2015/7/9

 

アニメにもなった「細胞擬人化漫画」。

気軽に読めて、意外と勉強になります。

専門の医師もオススメしていたり。

 

 

中竹 俊彦:

「流れる臓器」血液の科学―血球たちの姿と働き.

ブルーバックス, 2009/2/20

 

一つは漫画を紹介したので、もう一冊はもう少し硬派な本を。

血液の作られ方、はたらきなど、高校生物よりもう一歩踏み込んだ詳しさで解説しています。正直、これより詳しい本となると一般書をよりも医学書になりそうではあります。

参考文献

論文

1. Kim KH, Oh KY. Clinical applications of therapeutic phlebotomy. J Blood Med 2016;7:139-44. doi: 10.2147/JBM.S108479
2. Assi TB, Baz E. Current applications of therapeutic phlebotomy. Blood Transfus 2014;12 Suppl 1(Suppl 1):s75-s83. doi: 10.2450/2013.0299-12 [published Online First: 2013/10/03]
3. Houschyar KS, Lüdtke R, Dobos GJ, et al. Effects of phlebotomy-induced reduction of body iron stores on metabolic syndrome: results from a randomized clinical trial. BMC Medicine 2012;10(1):54. doi: 10.1186/1741-7015-10-54
4. Houschyar K, Lüdtke R, Rampp T, et al. Phlebotomy (bloodletting) in patients with metabolic syndrome: A randomized controlled trial. European Journal of Integrative Medicine 2009;1(4):187-88.
5. Hinrichs A, Picker S, Schneider A, et al. Effect of blood donation on well‐being of blood donors. Transfusion medicine 2008;18(1):40-48.
6. DePalma RG, Hayes VW, Zacharski LR. Bloodletting: past and present. Journal of the American College of Surgeons 2007;205(1):132-44.
7. Meyers DG, Strickland D, Maloley PA, et al. Possible association of a reduction in cardiovascular events with blood donation. Heart 1997;78(2):188-93.
8. Panebianco RA, Stachenfeld N, Coplan NL, et al. Effects of blood donation on exercise performance in competitive cyclists. American Heart Journal 1995;130(4):838-40.

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