突然ですが、「脳の形」をご存知でしょうか。
私の記事でも脳の話を時々紹介していますが、その中に出てくる「脳の地名」は、「脳の全体図」が地図として把握出来ていないとなかなかイメージしにくいかと思います。
専門書を見ると詳しすぎるほど細かく載っていたりするんですが、一般書では機能に重点をおいた書籍が多く、「形だけを明確なイメージとして頭に入れたい」という人向けの明快な解説が意外と世に出ていないのが現状です。
巷で見かける「脳の形を真似たグッズ」の形が往々にしていい加減だったりするのも、こういったことが理由のように思えます。
というわけで、今回の記事は「自分の手で脳を描いてみる」ことを目指しました。
描いてもらいながら脳の形を覚えることも出来ればいいな!という感じです。
紙とペンを片手に、是非実践してみて下さい。
自然科学や心理学に興味を持つ方だけでなく、アート系やデザイン系の方にもご参考にしていただければ嬉しいです。
大きな塊で名前を覚える
今回は「大脳」だけを扱うことにします。
「大脳以外」は需要があればそのうち別記事で。
大脳は「の」の字(あるいは「e」)を描くような感じでいってみましょう。
以降、左脳を描きながら話を進めますが、右脳でも基本構造ほぼ同じです。
あ
これが4つの「葉lobes」に分かれます。
「の」の書き順でなぞると、次に列挙する順で並びます。
・前頭葉frontal lobe
・頭頂葉parietal lobe
・後頭葉occipital lobe
・側頭葉temporal lobe
頭頂葉は「頭頂」と名がついていますが、正確には「頭頂部の後ろ半分」であって、「頭頂部の前半分」は前頭葉だったりします。
大雑把なイメージとして、「前半分は全部前頭葉」と考えてもいいでしょう。
これを分けているのが、下の図の「中心溝」です。
また、側頭葉と前頭葉の間にある大きな境界線は「シルビウス裂Sylvian fissure」と呼ばれます。
頭頂葉/後頭葉/側頭葉の境界線は、シルビウス裂の終端から「Y字型」を描くつもりで。
前頭葉と頭頂葉の境界線は外でも中でもシワ(脳溝)としてはっきり見えます。
頭頂葉と後頭葉の境界線は、脳の内側の方が分かりやすいですが、外側からも見えます。
そして、側頭葉と後頭葉・頭頂葉との境界線は、実ははっきりした「線」はありません。
ですので、ここで描いたY字型は、イラストにする時には描かないことが多いでしょう。
これらの境界線は余裕があれば覚えておきたいですが、図を見て思い出せれば十分です。
主要な脳溝・脳回を押さえる
脳の大雑把な形はさっきの形で「大体合ってる」のですが……
これだとツルッとしていて、心なしか「それっぽさ」が足りません。
やっぱり「脳のシワ」が無いとですね。
専門用語では、脳のシワを「脳溝salcus」と呼びます。
シワでないプリッとしたところは「脳回gyrus」と呼びます。
これから、「脳の地名」で「~溝」という名前が出てきたら「谷の名前」、
「~回」という名前が出てきたら「山の名前」と考えてください。
脳溝・脳回には当然個人差がありますが、大事な機能を持っている部分は大体みんな似たトコロにあって、似たカタチをしています。
その「要点」を、これから押さえておきましょう。
中心溝Central salcus
脳は機能解剖的に、大きく前後に分けて考えることです。
「前方は運動系=アウトプット」「後方は感覚系=インプット」という「土地勘」を身に着けておくと、整理しやすいからです。
そして、前方と後方を分ける境界線というのが、さっきの前頭葉と頭頂葉を分ける谷間なのです。
「中心溝」と言いましたね。
中心溝の前に「中心前回precentral gyrus」という山があり、後ろに「中心後回postcentral gyrus」という山があります。
中心前回・中心後回には、身体の各部を分担する神経細胞が場所ごとに整列しています。
特に手を司る部分(hand motor area)では使う神経が多いので少し後ろに突出しています。
余談ですが、錬金術の時代には「人間の身体は脳の中にいる小人が操っている」という説がありました。
科学の時代になって、この「中心前回・中心後回」がまさにこの「人体を頭の中で操る小人のようだ」という話になり、提唱した脳外科医の名を冠して「ペンフィールドのホムンクルス」と呼ばれるようになりました。
頭頂間溝
中心後回を作っている「谷」のうち、前方は中心溝と呼びました(上の図の赤線)
中心後回を作っている「後ろ側の谷」(さっきの図中で後ろの青線)は「中心後溝postcentral sulcus」と言います。
中心後溝に直行する谷を描き足して、以下のようなT字にしましょう。
ここで描き足した赤線は「頭頂間溝intraparietal sulcus」と呼ばれる脳溝です。
「頭頂葉parietal」の真ん中を突っ走っているので「intra(間) parietal(頭頂)」ということですね。
頭頂後頭溝
これはさっきの「Y字型」の中で、唯一「外側から谷として目に見える」部分です。
「頭頂葉と後頭葉を分けている」ので「頭頂後頭溝Parieto-occipital sulcus」です。
実は内側からの方がはっきり見える谷なのですが……内側編は機会があればそのうち。
側頭葉・前頭葉は「上・中・下」
側頭葉の脳溝
側頭葉は「2本の谷」「3本の山」と考えると分かりやすいです。
2本の「谷」は上を「上側頭溝」、下を「下側頭溝」と呼びます。
3本の「山」は上から順に、「上側頭回・中側頭回・下側頭回」です。
実際にこんなに綺麗に分かれるかどうかは図や模型にもよりますが、模式的にそう覚えておくのがおすすめ。名前も一貫性があるので覚えやすいはず。
前頭葉の脳溝
前頭葉も、側頭葉と同じく「上・中・下」に分かれています。
なので2本の谷を入れましょう。
起点は中心前回の前方境界線である「中心前溝precentral sulcus」から。
側頭葉と同様に、この境界線を「上前頭溝」「下前頭溝」と呼びます。
そして、「山」の方は「上前頭回・中前頭回・下前頭回」となるわけですね。
次に、下前頭回に「ピースサイン」の脳溝を描き足しましょう。
「ピース」の「人差し指と中指の間」は「三角部pars triangularis」と呼び、2本の指の後ろ側を「弁蓋部pars opercularis」と呼びます。
前頭葉は個人差が大きいので、あまり細かく名前は決まっていませんが、これらの脳溝以外にも蛇行や枝分かれした脳溝がたくさんあります。
いくつかの写真やCGを参考に「それっぽく」埋めてみては如何でしょうか。
ブローカ野Broca area/ウェルニッケ野Wernicke area
これはオマケ。でも有名なので図示できると嬉しいですね。
「ブローカ野」はさっきの「三角部の後方と弁蓋部」を指します。
「ウェルニッケ野」は「上側頭回のシルビウス裂後端付近」を指します。
ここまでの復習になりますが覚えているでしょうか。
正解はこちらです。
赤がブローカ野、青がウェルニッケ野です。
さっきの「アウトプットは前方・インプットは後方」に当てはめると、ブローカ野は「喋り」なので前方、ウェルニッケ野は「聞いて理解する」ので後方、ということは忘れませんね。
受験生は「アルファベット順でBはWより前」というこじつけで覚えると忘れにくいでしょう。
ブローカ野は前方にあり、ウェルニッケ野は後方にあります。
ちなみに発見の年代も、ブローカ氏のブローカ野の発見が前で、ウェルニッケ氏によるウェルニッケ野の発見が後です。
仕上げ
じゃあ、ここまでに描いたものを「全部盛り」にしてみましょう。
で、少し寂しい部分にノリで脳溝を増やしたり、脳溝と脳回のメリハリを強めたりする。
そうすると、こんな感じで描けます。
輪郭も手抜きしなければこんな感じに。
3つ描いても20分くらいで収まったので、慣れると5分くらいで描けると思います。
この枠組みは、脳を完全にゼロから描く時だけでなく、スケッチやメモで描き写す時にも有用です。
要点をとらえた図をサっと描けますからね。
それから、一度自分で「描いて」みると、脳の本を読んだ時にも「あぁ、この辺ね」と場所の対応が頭に入りやすくなるというメリットがあります。
皆さんも是非一度、自分の手で「脳」を描いてみて下さい。
★ひとことまとめ
☆このトピックにオススメの本
大村優慈(著), 酒向正春(監修):
コツさえわかればあなたも読める リハに役立つ脳画像.
メディカルビュー社, 2016/3/30
本記事を書くにあたってメチャクチャお世話になったので載せずにはいられません。
タイトルは「リハ」と銘打っていますが、純粋に脳機能局在の図解として非常に優れています。
リハビリ関係や医療関係に限らず、脳の構造に興味のある人なら広くオススメできる良書です。
「ライトな医学書」は購入層が厚いためか、良書がお手頃価格で手に入って非常にコスパが良い。
フロイド・E・ブルーム(著),久保田競・中村克樹(監訳):
新・脳の探検(上)―脳・神経系の基本地図をたどる
ブルーバックス, 2004/1/21
こちらは初学者向け。
今回の記事では入り切らなかった脳の発生や機能の話までしっかり入っています。
下巻と合わせて、「脳についての基礎知識」を網羅的に得られる内容です。
参考文献
雑誌
BRAIN AND NERVE 神経研究の進歩 2017年 4月号 増大特集 ブロードマン領野の現在地.
書籍
大村優慈(著), 酒向正春(監修): コツさえわかればあなたも読める リハに役立つ脳画像. メディカルビュー社, 2016/3/30
Web site
Wikimedia commons : Brodmann areas
Wikimedia commons : Adult male brain – natural size
この記事を書いた人
狐太郎
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