大人の知的能力は「IQ」で測るべきなのか?:PPIK理論【未知会ログ】

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Gardnerの「多重知能理論」Sternbergの「Successful intelligence」と、
ここまで「既存の知能理論に対するオルタナティブな理論」を紹介してきました。

いずれの理論も、主流的な知能理論を置き換えるには至りませんでしたが、
近代的な知能理論の「死角」を指摘する意義を持っていました。

 

今回紹介するAckermanの「PPIK理論」も、当時の主流知能理論の「死角」を指摘するものです。

 

実はこれまで考えてきた「知能」とは、実は子どもや青年を念頭に置いたものでした。

ここで初めて、「大人の知的能力」について考えてみましょう。

「大人の知的能力」は何で決まるのか?

まず、Ackermanの出発点となる素朴な疑問から考えてみましょう。

 

「なぜ知能のピークと頭脳労働者のピークは一致しないのでしょうか?」

 

WAISのような知能テストの成績を見る限り、いわゆる「流動性知能」の点数は20歳前後でピークとなり、その後は単調減少していきます。課題や調査によってピーク年齢は多少前後しますが、この傾向自体は変わりません。

「結晶性知能」については年齢の増加とともに単調増加しそうですが、実はこれは20~30歳程度で頭打ちとなって、それ以降はほぼ一定で推移するとされています。WAISの「言語理解」の年齢別標準点などを見ると、30歳程度で頭打ちになって、それ以降ほぼ一定の平均点(あるいはやや下がるくらい)になっています。

つまり、どの項目を重視するかによって多少の前後はあるにしろ、総合的な知能テスト成績のピークはせいぜい20~30歳ということになるはずです。

おそらく、知能テストの統計であればどんなテストでもこの傾向は概ね一貫したものでしょう。

既存の知能の枠組みに準拠する限り、Wechsler式検査だろうと、CHC理論だろうと、g-VPRモデルだろうと、この「知能のピークは20~30歳」という事実は覆せません。

 

一方で、「頭脳労働者のピーク」は必ずしも20代とは限りません。

政治家、大学教授、弁護士、医師、経営者……

個別の例を見れば「若い割に優秀な人」や「ベテランなのに無能な人」はいるかもしれませんが、例えば「業界を代表する有能な人を上から10人」という風に抽出したら、平均年齢はそれなりに高くなるでしょう。50代か、あるいはそれ以上か。

「知能テストで見れば20代が最も有能」とは言っても、上記のような職で20~30代で大活躍している人がいれば「若い”のに”すごいね」と言われるのが普通だと思います。

 

つまり、我々は

「知能のピーク自体は20~30歳頃にある」

「頭脳労働者のパフォーマンスのピークはもっと遅い」

という事実を経験的によく知っているわけです。

 

かなり前の記事で述べたように、知能テストの原点は「子どもの将来的な知的パフォーマンスを予測すること」でした。

Ackermanは、この枠組みが「大人の知的能力」を説明するには不十分だと考えました。

古典的な「知能」に準拠する限り、「なぜ頭脳労働者のパフォーマンスの一般的なピークが30歳より前にならないのか」が上手く説明できないのです。

 

既存の知能テストで測っているような「一般的な知識」「Gc(結晶性知能)」とされるのに対して、Ackerman「もっと個人的な人生に密着した知識」を「Gk」として区別することを提起しました。

つまり、既存の知能テストの知識セクションでは「社会において『知識や教養』とみなされる部類の知識」が測られるわけですが、Ackermanはここで聞かれることのない「普遍性の低い知識の蓄積」が「大人の知能」の決め手になっていると指摘したのです。

 

PPIK理論の構成

AckermanはVernonやCattellよりも後の人なので、当然ながらCattellが「Gc」と「Gf」を統計的に「再発見」したことを知っています。(こちらの記事を参照)

Ackermanは、これらの知見を全否定したり無視したりはしませんでした。

彼は、「g」「Gc」「Gf」に基づく理論を踏まえつつ、そこに「Gk」を組み込むことを考えました。

彼の使った図式を簡略化したのが以下の図です。

このモデルの右半分だけを見ると、Cattellの「Gc/Gfモデル」と同じになっていることが分かりますね。

彼がGc・Gfに加えて「Gk」を使って説明している論文として、Beier(2003)などを読んでも参考になるでしょう。(Beier, 2003の論文では更に簡易なモデルで説明しています)

 

Ackermanは、g・Gf・Gc・Gkのうち、

gGfIntelligence as Process

GcGkIntelligence as Knowledge

としてまとめました。

 

これは実質的に「Gc/Gfモデル」を踏襲しつつ「Gcとみなされる能力」をより拡張したとも言えるかもしれません。

彼の提起した「Intelligence as Process (処理的知能)/Intelligence as Knowledge (知識的知能)」は、従来の「流動性知能/結晶性知能」と概ね一致していますが、Ackermanの「Intelligence as Knowledge」は非常に個人的・個別的な知識をも含んだ概念である、というのが差別化のポイントだと思います。

 

そして、Intelligence as Processとの相関は低いながらも、Intelligence as Knowledgeを規定する重要な因子として、彼は「個人の性格や気質・傾向」にも着目しました。

 

「Motivation」や「Openness」をはじめ、「様々な性格的要素が将来的な成績と相関する」とするデータはそれなりにありましたが、これを「Personality 人格」「Interests 興味」という括りでまとめ上げたのはAckermanのオリジナルだと思われます。

 

Ackermanが「Personality」の項を立てた根拠は、Hans Eysenckの論文です。

Eysenckは様々な心理統計に基づき、「Personality」が「知能」と並んで重要な因子であることを示しました。

そしてAckermanは自らの調査によって、「Interests」もまた重要な因子であることを示したのです。

 

ここに役者が出揃いました。

Ackerman「大人の知的能力」を説明するために、以下の4要因が重要だと結論づけました。

1.Intelligence as Process (処理的知能)
2.Personality (人格)
3.Interests (興味)
4.Intelligence as Knowledge (知識的知能)

この頭文字を取って、彼は「PPIK理論」と名付けました。

(私は「PKII」の順で並べる方が絶対良いと思うんですが、何故この順番なのかはAckermanに聞いて下さい……)

 

「Personality (人格)」「Interests (興味)」は従来の知能理論では重視されていない項目であり、これを「intelligenceの枠組み」に組み込んで提示したことは、当時それなりの新規性がありました。

「Gk」の位置付けや、「Personality」「Interests」をどうモデルに組み込むかは論文により若干のブレがありますが、Ackermanはこれらの要素が個人の能力を規定する重要な因子であると考え続けたことは、その後の研究の中でも概ね一貫しています(Ackerman, 1997など)。

 

PPIK理論が与える視点

Ackermanの問題意識は、「既存の知能の枠組みは、『大人の知的能力』を考える上では不十分なのではないか」ということでした。

「既存の『知能』の枠組みに不足を感じた」という点では、「本当に『知能』は一つなのか」と疑問を発したGardnerや、「『知能』は実際に世の中に役に立つ能力をカバーできているのか」と疑問を発したSternbergとも重なる部分があると思います。

Ackermanがこの2人と違ったのは、いたずらに既存の理論を否定せず、それを補完するように別の視点を付加したことではないかと思います。AckermanはVernonやCattellのモデルも論文中で引用し、慎重に比較検討しています。

 

こうした結果、Ackermanが辿り着いたのが、「一般的な試験では測られない知識の蓄積」の重要さと、「人格や興味が長期的成果にもたらす影響」の大きさだったわけです。

 

AckermanのPPIK理論は「既存の体系とは一線を画す新理論」というなインパクトが無いためか、世間的にあまり派手な扱いを受けていません。

Webページ検索でも、論文検索でも、「Ackerman PPIK」のキーワードでヒットする数は、GardnerやSternbergのそれには遠く及びません。

しかし近年、「人格 Personality」と「興味 Interests」の重要性は、彼の手を離れて裏付けられるようになってきました。

 

「成功を規定する」として近年注目されている概念の一つに、「Grit」というものがあります。

Duckworth(2011)らは、長期的な好成績を収めるかどうかを左右するのは単なる知能ではなく、むしろある種の性格的特性であることを見出しました。

この「やり遂げるための意志力」とでも呼ぶべきものを、彼女は「grit」と称したのです。

 

「Grit」という性質は2つの要素から成ります。

・情熱:自分の最も重要な目標に対して、興味を持ち続け、ひたむきに取り組む
・粘り強さ:困難や挫折を味わってもあきらめずに努力を続ける

(アンジェラ・ダックワース(2016)『やり抜く力 GRIT』より)

 

これはAckerman氏が指摘した「Interests」「Personality」にピタリと符合するものです。

実際Duckworthらの論文でも、Ackermanの論文は度々言及されています。

 

「PPIK理論」という存在は将来的に忘れられるかもしれませんが、

・大人の「長期的成功」を予測する上では、「知能」は子どもほど決定的な差でない

・長期的成功には、「従来的知能」に加えて「Interests」「Personality」が重要な役割を果たす

という彼の指摘自体は非常に的を射ていたと言えましょう。

 

おわりに

★ひとことまとめ

1. 古典的な知能テストは「大人の知的能力」を想定した枠組みではない

2. 長期的成功には「個人性の高い知識」と「人格・興味」が重要

3. 「Grit(やり抜く力)」は長期的成功の重要な因子となる

 

★参考文献

・書籍

Hunt, E. (2010). Human Intelligence. Cambridge University Press
アンジェラ・ダックワース(2016).やり抜く力 GRIT. ダイヤモンド社

 

・論文

Ackerman, Phillip L. “A Theory of Adult Intellectual Development: Process, Personality, Interests, and Knowledge.” Intelligence 22, no. 2 (1996/03/01/ 1996): 227-57. 
Ackerman, Phillip L, and Eric D Heggestad. “Intelligence, Personality, and Interests: Evidence for Overlapping Traits.” Psychological bulletin 121, no. 2 (1997): 219.
Ackerman, Phillip L. “Personality, Self-Concept, Interests, and Intelligence: Which Construct Doesn’t Fit?”. Journal of Personality 65, no. 2 (1997/06/01 1997): 171-205. 
Beier, Margaret E, and Phillip L Ackerman. “Determinants of Health Knowledge: An Investigation of Age, Gender, Abilities, Personality, and Interests.” Journal of personality and social psychology 84, no. 2 (2003): 439.
Duckworth, Angela Lee, Teri A Kirby, Eli Tsukayama, Heather Berstein, and K Anders Ericsson. “Deliberate Practice Spells Success: Why Grittier Competitors Triumph at the National Spelling Bee.” Social psychological and personality science 2, no. 2 (2011): 174-81.
Ericsson, K Anders, Ralf T Krampe, and Clemens Tesch-Römer. “The Role of Deliberate Practice in the Acquisition of Expert Performance.” Psychological review 100, no. 3 (1993): 363.

 

★もっと知りたい人向け

アンジェラ・ダックワース(著), 神崎 朗子(翻訳):

やり抜く力 GRIT.

2016/9/9, ダイヤモンド社

 

「Grit」を説明するために、かの論文の著者自身が書いた一般書。の邦訳。

類書の中でも最も明快で、根拠となった統計や論文を示しつつ科学的に論じています。

「成功するには『IQ』より『グリット』」という触れ込みはいくらか誇大広告な感がありますが、その辺りの自己啓発感を差し引いても、良い本だと思います。

 

★この研究会について

以下の書籍の輪読会をインターネット上にて定期開催しています。

Earl Hunt: Human Intelligence(2010, Cambridge University Press)

 

本記事は輪読会の内容を元に、メンバーのトークも盛り込んでサマライズしたものです。

トピックや話の流れは上記のテキストを踏襲していますが、内容は再解釈の上で大幅に加筆や再編を加えています。

 

なお、研究会に参加をご希望の方はこちらの記事をご覧ください。

 

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木村勝哉

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