noteを始めてみました。まだ2記事しかありませんが。
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さて、先日はnoteにこちらの記事を書きました。
https://note.mu/sick4989hack/n/nb91a06851927
これと関連して、今回は紅茶に関する科学ネタを紹介しようと思います。
寒い冬は温かい紅茶が美味しい時期ですが、「放っておくとすぐに冷めてしまう」というのが悩み。
今回は「紅茶はナゼ冷めるのか」というシンプルな疑問を、科学的に解明してみましょう。
1. 伝導
まず大きな原則として、熱の伝わり方には大きく3種類あります。
・伝導
・対流 (伝達)
・輻射 (放射)
この3つの分類に沿って考えていこうと思います。
まずは一番直感的な「伝導conduction」から説明しましょう。
これは、「温度差のあるものが触れ合うと、熱い方から冷たい方へ熱が伝わる」という現象。
「熱い鉄板の上で食材を加熱する」なんてのは典型的にこれですね。
金属の箸で焼き肉を焼いてると手元まで熱くなってくるとか、熱い紅茶を入れたマグカップが外面まで熱くなるのも「伝導」によるものです。
コンビニのホットドリンクは容器を温めることで中の飲料を温めているので、これも伝導。
「伝導」は3つの中でも、最も日常的に納得しやすい現象だと思います。
紅茶は「伝導」によって、「接しているカップやポットの温度が紅茶よりも低い」分だけ、どんどん熱を奪われていきます。どうすればこれを防げるでしょうか。
一つは、事前にカップやポットを熱湯などにくぐして、「使う前に温めておく」ことです。
特に陶器の大きなポットなどは、これをやるのとやらないのとで大違いです。
もう一つは、カップやポットを選ぶときに「熱容量が小さく、断熱が良い」ものを選ぶことです。
「熱容量」とか言うと小難しいですが、要するに「金属」や「薄い陶器」はすぐに温まりますよね
「厚くてずっしりした陶器のポット」は温めるのに大きなエネルギーが要ります。
一度容器が内容物と同じ温度になってしまえば、それ以上は容器に熱が流れていきにくい。
つまり、「温まり切るまでに要する熱が少ない」容器を選べば、内容物の熱を奪う量が最小限になるということです。
ただ、温まったそばから熱を余所に逃がしてしまっては意味がないので、金属のカップなら二重構造になっている必要があります。
熱容量が大きい
=紅茶から熱を奪う熱が大きい
先に温めておく効果が大きいのはこういう容器
熱容量が小さい
=紅茶から奪う熱が小さい
先に温めておかなくても紅茶が冷めにくい容器
断熱性の高いコースターなどを敷いて「伝導で熱が下から逃げていくのを防ぐ」のも多少は意味があるかもしれません。
影響としては小さいはずですが、カップやポットの底の構造次第では、無視できないくらいの熱が逃げているかも?
2. 対流
「対流convection」は「熱を持った物体が移動することによって熱を運ぶ」現象です。
文字だとちょっとわかりづらいですね。
「扇風機で涼しくなる」のをイメージしてもらうと良いと思います。
例えば、気温が25℃の日で考えましょう。
私たちの身体の表面にある空気は、体温で温められています。(これは伝導ですね)
仮に私たちの身体の表面に接している空気を30℃とすると、こうなります
↑これを、↓こういう風に出来たら涼しくなると思いませんか?
それをやるのが扇風機です。
ここで、「温まっていない空気が前からやって来る」ことで我々が涼しくなり、「温まった空気が後ろに送られる」ことで後ろの空間がわずかに温められている、ということに着目してください。
これが「対流」です。対流は必ず「媒介となる物体の移動」を伴います。
エアコンで涼しくなるのも同じ仕組みですね。
他にもCPUの水冷など、対流は「温める」より「冷やす」ために使われることが多いですが、温風式の電気ヒーターなどは「対流を使って暖めている」と言っても良いでしょう。
ところで、扇風機で涼しくなる時には、汗の蒸発の分もありますね。
ただ、ここでは「状態変化」については深く扱わずに「対流」として一本化します。
水の状態変化に伴う熱のやりとりは、「潜熱」という概念を用いることで、広義に「対流で移動する熱」という枠組みの中に包含できるからです。
「水蒸気が混ざった空気は実際の温度以上の熱エネルギーを持つ」とだけ考えてください。
さて、カップやポットから「対流」で失われる熱を減らすにはどうしたらいいでしょうか。
一つは「フタをすること」です。
蓋をしないと液面から対流によって熱が奪われる
この際、水が水蒸気になって出ていくので、
「気化熱」として奪われる熱もある
蓋をすると空気が移動しないので対流で熱が奪われない
蓋の内側では水蒸気が飽和するので、
水の蒸発によって奪われる熱も最小限になる
このように、フタを付けると、中の紅茶が冷めにくくなります。
ポットではもちろんのこと、カップでも飲まない時や離席時にはフタをすることをオススメします。
なお、飲む時もつけっぱなしにするスタバタイプのフタは個人的に嫌いなので人に勧めません。香りが分からない容器なんか使ったらコーヒーも紅茶も台無しでしょ。
「対流」に関しては、温度と水蒸気が両方失われる「液面からの対流」が最も量としては大きいですが、カップの壁面からの「対流」による喪失もあります。
先ほど挙げた「真空マグ」などは、壁面からの対流も減らしてくれます。
ポットだと、「ティー・コージー」という道具があったりします。
要するに「ポット用の掛け布団」みたいなものですが、これは「対流」と、後述する「輻射」による熱の喪失を両方とも減らして、ポットを冷めにくくします。
3. 輻射
おそらく最もイメージが湧きにくいのがこの「輻射(放射)radiation」でしょう。
これは「物体のエネルギー(熱)が電磁波によって運ばれる」という現象。
放出された光エネルギーはどこかで別の物質にぶつかるとまた熱になったりします。
「太陽がどうやって地球を暖めているか」も、この「輻射」無しでは説明できません。
太陽と地球の間には空気がないので、「伝導」はしないですよね。
太陽から飛んできた物体が地球に来ることも普段まずないので、「対流」も無いです。
「太陽→地球」という熱の受け渡しにおいては、
「熱を持った太陽が、その熱を光エネルギーに変えて放出する(=輻射)」
→「光エネルギーを受け取った地上の物体上で、一部が熱エネルギーに変換される」
という現象が起こっています。
「えっ? オレ、熱あるけど、太陽と違って光ってないよ?」と思う人もいるかもしれません。
日常レベルの輻射でやり取りされる「光エネルギー」は、主に「赤外線」です。
大雑把に言って、「温かいもの」は何でも、そのエネルギーの一部を電磁波にして放っています。
暗視ゴーグルで「赤外線」を可視化しているイメージを見たこともあるかと思います。
最近だと電気ヒーターでも赤外線を使っているものがありますねね。
赤外線で飛ばされるのは「光エネルギー」ですが、これが私たちの身体で吸収されると「熱エネルギー」に変換されるわけです。
「赤外線」というのは何も特別なものではなく、
熱→赤外線→熱
というやりとりが、実は身の回りのありとあらゆるところで行われています。
「輻射」の概念は難しいですが、実はポットやカップも、熱を持った面から赤外線を出しています。
起こっていることは「熱いものが表面からエネルギーを放出している」ということなので、その予防は「対流での熱喪失を減らす方法」とあまり変わりません。
「カップやポットの壁面が高熱の状態で外気に直接触れることを避ける」のが、輻射による熱喪失も減らすことになるんですね。断熱のカップしかり、ポット用の掛け布団しかり。
ついでに言えば、我々が「布団をかけて寝ると暖かい」のも、「輻射」と「対流」による熱喪失を最小限に抑えるからです。哺乳類は生きているだけで熱を生み出し続けているので、「熱が失われないようにする」「生み出した熱が戻っていくようにする」だけで温かくなるんですね。
以上、「熱の3つの伝わり方」を、紅茶の例で紹介しました。
実はこの3つの分類は気象学でよく使われる概念でもあります。
「地球」と「紅茶」に同じ原理が働いてるなんて、何だか面白いと思いませんか?
★ひとことまとめ
☆このトピックにオススメの本
図解 気象学入門
ブルーバックス, 2011/3/23
新書ながらもあなどれないクオリティ。気象に関して網羅的に扱った本の中では、一般書として最高峰でしょう。専門書の入門用としても通用する一冊です。
厳選紅茶手帖.
世界文化社, 2015/7/16
こちらは紅茶に関する基本知識を網羅した一冊。
茶葉の種類、選び方、入れ方、そしてアレンジなど、コンパクトながら一通りの話が入っています。紅茶に興味のある人が「とりあえず一冊」買うならまずオススメです。
☆その他のオススメ
「とりあえずこれにしとけば冷めないよ」的な。
職場では離席することも多いので右の蓋付きで量が少ない右の方、自宅では一回で多めに入れるので左の方を使ってます。
冷たいものにも使えるので便利です。
参考文献
書籍
古川 武彦, 大木 勇人: 図解 気象学入門. ブルーバックス, 2011/3/23
この記事を書いた人
狐太郎
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