「酒は少しなら良い、は統計のウソ」はウソ?【隙間リサーチ】

4 自然科学

古くは「酒は百薬の長」などと言うことわざがあります。

酒の飲みすぎが大きな害を生むことはよく知られていますが、

一方で「適度に飲むのなら逆に健康に良い」といった話も聞こえてきます。

 

「酒が良いというのは嘘。適度に酒を飲めるくらいの人が一番健康な暮らしをしているだけ」

という説も耳にすることがありますが、これもまた誤解を含んでいます。

 

実際、「少量の飲酒」は健康に良いのか?悪いのか?

「酒と健康」の関係について、検索をかけるとあまりに膨大な論文がヒットします。

比較的メジャーな雑誌に載っているレビューですら全部は目を通せないほど……

 

今回は話題を絞って、「少量(適量)飲酒は健康に良いか悪いか?」について、

私なりに調べた結果を紹介しつつまとめてみます。

 

なお、以下の文中ではアルコール〇g(△単位)という表記が度々出てきます。

アルコール 20g=1単位

 =ビール 500mL=日本酒 1合=ウイスキー ダブル1杯=ワイン 1/3瓶

この換算を目安に、普段の自分の飲酒が何単位になるか考えてみてください。

慣習的には「1日あたり1単位~2単位程度」なら「節度ある飲酒」とされることが多いです。

しかし、これらのデータはほとんどが欧米の研究です。日本人の皆さんは(酒に自信がある人以外)もっと少ない量が「適量」だと考えた方がいいでしょう。

 

 

1.そもそも「少量飲酒が身体に良い」のはどうして?

ところで、漠然と「身体に良い」と言われても検証のしようがありませんね。

今回は「身体に良い」=「死亡率を下げる」という前提で話を進めましょう。

アルコール摂取の「少量」の基準については、その都度表記します。

まず、「アルコールの量が病気にどう影響するか」をイメージしやすいグラフがこちらです。

Gaziano JM, Gaziano TA, Glynn RJ, Sesso HD, Ajani UA, et al. (2000) Light-to-moderate alcohol consumption and mortality in the physicians’ health study enrollment cohort. Journal of the American College of Cardiology 35: 96-105.

この研究では、「酒を飲めるようなお金持ちが健康というだけ」という見方への斜め上の対策として、「医者だけ」を調査するというデータの集め方をしています。もちろん完璧なアンサーではないですが、社会的な要因の差を比較的減らしているわけですね。

4つのプロットはいずれも横軸がアルコール摂取量で、縦軸が(6年間での)死亡率です。

左上の「総死亡率」のグラフを見てみましょう。

この図を見ると、「全く飲まない人」「たくさん飲む人」よりも「適度に飲む人」の方が

死亡率が下がることが分かります。具体的には「1日1杯(1単位程度)未満」が良い。

こういうU字型のカーブになる原因は、右上と左下のグラフを見ると少し分かります。

 

右上は「心血管疾患(心臓病)の死亡率」の図。酒が増えると心臓病は減ることが分かる。

左下は「ガンの死亡率」の図。「飲まない」から「1日1杯未満」くらいまでほぼ横向き。

(というかブレ幅が大きすぎて、一定の傾向を確認するのは難しいというべきか。)

この二つのグラフの重なりによって、「少量飲酒がベスト」というグラフになるんですね。

現代人の死因の大半は「がん」か「心疾患」なので、この二つの疾患の死亡率がトータルの死亡率のホトンドを握っているわけです。

 

「酒を飲むと健康に良いのは、心臓病が減るから」というイメージを持てたかと思います。

なお、昔は「酒飲みの方が喫煙率が高い」ということを計算に含めていなかったが故に「酒飲みは心臓病で死にやすい」という真逆の結論に至った研究があったらしいです(すみませんソースは不詳です)。もちろんこれは不適切な因果関係で、現在の知見では「タバコが心臓病を引き起こすだけ。酒自体は心臓病の確率を高めない」という修正がなされています。少なくともこの調査でも、ちゃんと喫煙の影響は補正されております。

 

そして、心臓病にとってタバコに次ぐ悪影響を与えるのは?

「高血糖・高血圧・高脂血症・腹部肥満」でお馴染みの生活習慣病(メタボリックシンドローム)ですね。

つまりこの時点で「飲酒は生活習慣病のどれかと関係するのでは?」という推測ができます。

 

 

2.どうしてアルコールが心疾患を減らすのか

心疾患の原因になるのがタバコと生活習慣病、ということは先に書きました。

喫煙が同じくらいの人同士でも、少量飲酒する人の方が死亡率が下がるということなので、

次なる候補として「少量飲酒は生活習慣病を改善させるのでは?」という仮説が立ちます。

それを検証しているまとめがこちらです

Koppes LLJ, Dekker JM, Hendriks HFJ, Bouter LM, Heine RJ (2005) Moderate Alcohol Consumption Lowers the Risk of Type 2 Diabetes. Diabetes Care 28: 719.

この研究では「2型糖尿病(いわゆる「生活習慣病」としての糖尿病は基本的にこれ)」の発症率が飲酒量によって上下するかどうかを検証しています。

Koppes LLJ, Dekker JM, Hendriks HFJ, Bouter LM, Heine RJ (2005) Moderate Alcohol Consumption Lowers the Risk of Type 2 Diabetes. Diabetes Care 28: 719.

この研究では結論として、「少量飲酒によって2型糖尿病の率が下がる」としています。

具体的には、1日6g(0.3単位)~40g(2単位)の人で2型糖尿病の発症率が低い模様。

 

また、血糖ではなく「脂質異常症」(いわゆる「高脂血症」もこれ)のデータもありました。

Rimm EB, Williams P, Fosher K, Criqui M, Stampfer MJ (1999) Moderate alcohol intake and lower risk of coronary heart disease: meta-analysis of effects on lipids and haemostatic factors. BMJ 319: 1523-1528.

こちらでは、1日40g(2単位)未満のアルコール摂取で、「善玉コレステロール」がアルコール非摂取の人よりも増えるとの結論が出ています。

※なお、ここでいう「善玉コレステロール」とはHDL(High density lipoprotein cholesterol)のこと。

 

この2つの研究は、多くの研究のメタアナリシス(つまり他の研究のまとめ)なので、単発の調査よりも信頼度は高いです。……が、「観察」に限られているという欠点があります。

つまり最初に言ったように、

「酒を飲むから健康なのではなく、健康でお金がある人が適度にお酒を飲むのでは?」

という疑問がここで湧いてくるわけです。

 

大まかに言って、研究モデルには「観察」と「実験」があります。

ラットなどの動物であれば「死ぬまで毎日酒を飲ませ、早く死ぬか長生きするか調べる」という「実験」が可能ですが、人間相手に「死ぬか生きるか」を実験できるはずもありません。

(本題から外れるので載せませんが、動物実験で「少量飲酒で長生き」という実験結果はあります)

人間では研究法の選択肢は事実上二つしかありません。

「観察で、死亡率を調べる」か、「実験で、死亡率以外を調べる」か。

上で紹介した2つの研究は「観察」を多くの例でまとめた研究ということになります。

では実験は?

 

少量飲酒の影響を調べた実験として、こんな論文があります。

Davies MJ, Baer DJ, Judd JT, Brown ED, Campbell WS, et al. (2002) Effects of moderate alcohol intake on fasting insulin and glucose concentrations and insulin sensitivity in postmenopausal women: A randomized controlled trial. JAMA 287: 2559-2562.

こちらは、被験者に「あなたはこれだけの酒を毎日飲んでね。あなたは飲まないでね」という割り当てをランダムに行っています。ここが「実験」ですね。

しかし、これを「病気になるまで」ずっと続けてもらうワケには行きません。倫理的にね。

妥協点として、短期間で「検査値が、病気になりやすい方に傾くか、病気になりにくい方に傾くか」を調べることにするのです。

 

検査値の解説まで入れるとやや煩雑になるので割愛しますが、この研究の結論としては

「1日15g(0.75単位)および30g(1.5単位)のアルコール摂取で、

 糖尿病と高脂血症に関する検査値が良くなる」というものでした。

この傾向は、上記2つのメタアナリシスの結果と上手く一致するものです。

これらの結果を踏まえれば、「お金持ちだから酒を飲み、お金持ちだから健康でいられるだけ。酒を飲むのが健康に良いわけではない」という仮説はほぼ否定されたと言えるでしょう。

 

オマケの話。

「お酒が良いのではない。ワインが身体に良いのだ」という話も一時期ありました。

ワインに含まれる「レスベラトール」は、確かに長寿物質の候補とされています。

しかしビール・ワイン・蒸留酒で比較したメタアナリシスでは、ビールや蒸留酒でも「少量で長寿効果」が認められているようです。ワインに限るわけではないのですね。

Rimm EB, Klatsky A, Grobbee D, Stampfer MJ (1996) Review of moderate alcohol consumption and reduced risk of coronary heart disease: is the effect due to beer, wine, or spirits? BMJ 312: 731.

ちなみにこの論文の筆者も、上の方で紹介しているRimm氏。

※2018/1/11追記

783人の前向きコホート研究で「レスベラトールの健康効果は証明できなかった」との報告が2014年に出ているようです。本記事の本論に影響を与える知見ではありませんが、ここに補足しておきます。

 

 

3.生活習慣病以外の影響は?

飲酒が生活習慣病の率を下げて心疾患の率を下げることが分かりました。

しかしそれ以外の効果はどうでしょう?

 

少量の飲酒と「脳の衰え」の関係について調べたという研究があります。

Stampfer MJ, Kang JH, Chen J, Cherry R, Grodstein F (2005) Effects of Moderate Alcohol Consumption on Cognitive Function in Women. New England Journal of Medicine 352: 245-253.

1日15g(0.75単位)未満のアルコールで、脳の衰えをわずかに予防するという結果でした。

Stampfer MJ, Kang JH, Chen J, Cherry R, Grodstein F (2005) Effects of Moderate Alcohol Consumption on Cognitive Function in Women. New England Journal of Medicine 352: 245-253.

この研究は女性のみ対象にしていますが、被験者の統一性を高めるためであって、「少量で脳機能低下を軽減させる」という効果自体は男性に当てはまらないわけではないと思います。アルコールの代謝速度や許容量は異なるものの、代謝の仕組みは男女共通ですから。

この研究では学歴や社会的要因などの影響も補正した上でデータを出しています。

 

「長期的な少量摂取で脳機能を良くする」とはいえ、もちろん飲みすぎは禁物です。

「長期間の大量飲酒で脳機能が荒廃する」という話は有名で、数多くの論文が出ています。

Harper C (1998) The Neuropathology of Alcohol-specific Brain Damage, or Does Alcohol Damage the Brain? Journal of Neuropathology & Experimental Neurology 57: 101-110.

長期間の飲酒では、特に前頭葉・視床下部・小脳が、じわじわとダメージを受けます。

実際にCTやMRIで脳の3D画像を撮ると、脳自体が縮んでいるとか。恐ろしや……

 

 

4.結局どうなの?

結論から言えば、1日1単位~2単位の少量飲酒がどうなのかはいまだに結論が出ません。

というか、この先もずっと結論は出ないかもしれません。

それは先に述べたように、「観察」でも「実験」でも決定打を出せないからです。

飲酒はあまりに多くの生活習慣・社会的状況と関連するので、「観察」ではどうしても「そのほかの要素」の影響を排除しきれない。

「実験」では、検査値でしか結果が出せないので、「実際にそれが寿命を延ばすのか」という根本の問題については、間接的に推測することでしか回答できない。

 

また、論文発表のバイアスもあります。

ここでは「少量飲酒が寿命を延ばすor病気を予防する効果があった」という論文ばかり紹介しましたが、「効果があるかないか分かりませんでした」という研究結果は論文として世に出ないことが多いはずです。

ちなみに、上で紹介したRimm氏の‘Review of moderate alcohol consumption and reduced risk of coronary heart disease: is the effect due to beer, wine, or spirits?’の中では、「ワイン・ビール・蒸留酒、どれも健康に悪い。少量でも健康に悪い」という結果が出た調査も紹介されています。

ただ、これらの結論を違う見方で捉えるならば、

「1日2杯程度の飲酒なら、良いか悪いか分からない程度しか健康に影響しない」

ということは言えるかもしれません。

長寿効果があるかどうかは眉唾と言わざるを得ませんが、少なくとも「少量でも明らかな害がある」とする論文はそうそう出ていません。ならば安心して、今日も一杯飲みましょう。

 

最後になりますが、飲みすぎにだけは注意しましょう。上記は全て「少量飲酒」の話です。

「一杯は人酒を飲む、二杯は酒酒を飲む、三杯は酒人を飲む」という諺があります。

「悪くないのは1杯目。気を付けなきゃいけないのは2杯目。理性が利かなくなって3杯目」と読み替えれば、このことわざは非常に疫学に適った経験則だといえましょう。

飲みすぎれば、ガンは増えるし脳は萎むし、酔っ払えば社会的にも問題を起こしかねません。

 

なお、「脳の発達過程では」少量のアルコールでも悪影響が明らかにされています。

Davies MJ, Baer DJ, Judd JT, Brown ED, Campbell WS, et al. (2002) Effects of moderate alcohol intake on fasting insulin and glucose concentrations and insulin sensitivity in postmenopausal women: A randomized controlled trial. JAMA 287: 2559-2562.

お子さんと妊婦さんの飲酒は控えるのがよろしいでしょう。

 

 

★ひとことまとめ

1.酒を飲むと「ガンが増え」「心臓病は減る」

1′.バランスが丁度良いのは「1日1杯未満」、多くても「1日2杯」

2.心臓病が減る理由は、血糖・脂肪に作用して生活習慣病を予防するから

3.少量摂取は脳の衰えを予防するかもしれないが、過量は間違いなく脳を萎縮させる

4.明らかに飲酒ゼロが良いのは「小児」「妊婦」

4′.健常成人は「少しなら、飲みたかったら飲めば良い」

 

☆このトピックにオススメの本

ダレル・ハフ (著),‎ 高木 秀玄 (翻訳) :

統計でウソをつく法―数式を使わない統計学入門.

ブルーバックス, 1968

今回は幅広く情報を収集するに当たって、数多くのグラフや統計を扱いました。というわけで、「統計を読む上で心得ておきたいエッセンス」が詰まった一冊を紹介しておきます。

高校生でも読める内容でありながら、非常に実践的な視点を提供しています。再版に再版を重ねている初学者向けの名著。

 

参考文献

書籍

1)梅田悦生 : 飲酒の生理学―大虎のメカニズム―. 裳華房, 1997.

2)ダレル・ハフ (著),‎ 高木 秀玄 (翻訳) : 統計でウソをつく法―数式を使わない統計学入門. ブルーバックス, 1968

論文

1)Gaziano JM, Gaziano TA, Glynn RJ, Sesso HD, Ajani UA, et al. (2000) Light-to-moderate alcohol consumption and mortality in the physicians’ health study enrollment cohort. Journal of the American College of Cardiology 35: 96-105.

2)Rimm EB, Williams P, Fosher K, Criqui M, Stampfer MJ (1999) Moderate alcohol intake and lower risk of coronary heart disease: meta-analysis of effects on lipids and haemostatic factors. BMJ 319: 1523-1528.

3)Davies MJ, Baer DJ, Judd JT, Brown ED, Campbell WS, et al. (2002) Effects of moderate alcohol intake on fasting insulin and glucose concentrations and insulin sensitivity in postmenopausal women: A randomized controlled trial. JAMA 287: 2559-2562.

4)Rimm EB, Klatsky A, Grobbee D, Stampfer MJ (1996) Review of moderate alcohol consumption and reduced risk of coronary heart disease: is the effect due to beer, wine, or spirits? BMJ 312: 731.

5)Stampfer MJ, Kang JH, Chen J, Cherry R, Grodstein F (2005) Effects of Moderate Alcohol Consumption on Cognitive Function in Women. New England Journal of Medicine 352: 245-253.

6)Harper C (1998) The Neuropathology of Alcohol-specific Brain Damage, or Does Alcohol Damage the Brain? Journal of Neuropathology & Experimental Neurology 57: 101-110.

7)Davies MJ, Baer DJ, Judd JT, Brown ED, Campbell WS, et al. (2002) Effects of moderate alcohol intake on fasting insulin and glucose concentrations and insulin sensitivity in postmenopausal women: A randomized controlled trial. JAMA 287: 2559-2562.

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木村勝哉

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