怪異に遭ったら、お祓いよりまず病院へ【新書読書】

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オリヴァー・サックス (著), 大田直子 (翻訳)

見てしまう人びと 幻覚の脳科学

ハヤカワ・ノンフィクション文庫, 2018/3/20

 

今回は新書じゃなくて文庫です。

まぁ時々こういうことがあってもいいでしょう。

 

SNSでちょっとしたオカルトなお話がありました。

当人が本当に「そう」なのかは分からないので直接引用はしませんが、簡単に言うと「十代の娘が動物の霊に憑かれたようになった」という話でした。

これに対して、「脳の病気の可能性があるから一度病院へ行った方がいい」という指摘が、脳を専門とする医師から寄せられました。

真実がどうであったかは不明(そもそも発端の話が真実であったかも)なので、この話はここでおしまいです。

 

個別事例についての真偽はどうあれ、

「怪異ではなく脳疾患の可能性があるから、まず病院へ行った方が良い」

この指摘は非常に重要なものだと思います。

 

私は「全ての怪異は『脳の異常』である」と主張するつもりはありません。

・「Aという脳の異常で奇妙な症状が出る。昔はBという怪異だっただろう」

・「過去にBと呼ばれていた怪異は、実はAだということが解明された」

この2つの主張には明確な違いがあり、前者にいくら説得力があっても、そこから後者まで行くことは「分を超えた」主張だと私は考えています。

 

それでも「怪異に遭ったら病院へ」と主張するのには大きな理由があります。

それは、「もしも病気だったら治療を受けられるから」です。

もし「医療」によって診断がつくものであれば、「お祓い」に奔走してお金や時間を浪費する必要はありません。

「医療者」というのは、現代日本において「最も手軽に、安価に、確実にアクセス出来て、最も勝率の高い専門家」であると私は考えています。

合理的に考えて、医者より先に霊能者を頼る実利的な理由が無いのです。

 

だから冒頭の事例についても、私は本人に向けて「病気だと思うから病院へ行け」とまでは言えません。

「病気だったら呪いよりラッキーだから、その可能性に賭けて最初は医療機関に行く方が良いのでは?」という感じですね。

 

最後に、申し訳程度に本の紹介をしましょう。

「脳の病気」では非常に色々な「奇妙なこと」が起こります。

こうした症状の中には、一見すると神秘体験オカルトでしか説明できないように思えるものもあります。

オリヴァー・サックス氏は、こうした「不思議な現象を脳から解明する」ことのパイオニアです。

彼のすごいところは、この中で紹介している事例の多くが「彼自身の診察した実際の症例」だということです。さながら心霊探偵のようですね。

 

この本で紹介されているような症例が実際に目の前に現れることは極めて稀だと思います。

それでも、「奇妙な症状」について軽くでも知識をもっておくことで「もしかして病気では?」というセンサーが磨かれる部分はあるのではないかと思います。

つまるところ、こういう知識で「診断しよう」としてはいけなくて、あらゆる不思議に対して「もしかして科学によって診断のつく現象なのでは?」という感覚を持ちやすくなることに意味があるのではないでしょうか。

 

……などと、もっともらしいことを書いてしまいましたが、すごく率直に言えば「面白い」というのが私の勧めたい最大の理由です。

ヒトの脳は、人間自身が思っているよりも遥かに多彩な機能を内包しています。

そして、その「脳」の暴走は、時に「ファンタジーとしか思えないような症状」すら引き起こすのです。

これ、すごく面白くないですか?

私はすごく面白いと思うんです。

 

★NEXT STEP

オリヴァー・サックス (著), 大田直子 (翻訳)

音楽嗜好症 脳神経科医と音楽に憑かれた人々 

ハヤカワ・ノンフィクション文庫, 2014/8/22

 

同じ著者による症例エッセイ。

こちらは「音楽」をテーマにした症例・研究が中心です。

以前に書評を書いているので、音楽と脳に興味のある方は是非どうぞ。

【書評】音楽嗜好症

 

乾 敏郎 (著)

イメージ脳

岩波科学ライブラリー, 2009/3/6

 

これは直接的には怪異をテーマにした本ではありません。

しかし、様々な頭頂葉の検証を元に、頭頂葉の「イメージする」機能を解き明かしています。

そして、この頭頂葉の「イメージする」機能の異常が、例えば「幽体離脱」「ドッペルゲンガー」といった現象を引き起こしうることを、理論と事例から説明しています。

脳の中でも「何をやっているところか、説明を聞いても分かるようで分からない」と言われがちな頭頂葉。それを理解する一助となる本です。

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木村勝哉

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