光と色彩の科学
―発色の原理から色の見える仕組みまで
ブルーバックス, 2020/10/21
高校理科、すなわち物理や化学や生物に対して、「そんなのお勉強して何の役に立つの?」という声はそれほどマイノリティではないと思います。
それから、「そんな小難しいこと勉強したくない」という人が多数派なのも知っています。
(「多数派じゃないでしょ」と思った方、その環境は大事にして下さい)
しかし、これが「色彩」となるとどうでしょうか?
「色彩」は、私たちの娯楽の大部分に大きく影響しています。
いわゆる高尚な絵画だけではなく、動画やゲームや空間デザインなど、私たちは多くのメディアから日常的に色彩を摂取しながら生活しています。
そして、その「色彩」の理解には、実は理科の知識が不可欠なのです。
「光」というのは物理的現象です。
しかし、「光」それ自体は特定の波長を持った波に過ぎません。
これを「色」として認識するのは人体の仕様であり、これは生物学的現象なのです。
そして、生物が化学物質の寄せ集めである以上、その根底には化学的現象があるはずです。
本書では、このように科学的視点から「色彩」の本質に迫っていきます。
ちなみに、続く章では「色彩の心理学」についても触れているのですが、この部分はあまりまとまりも無く、個人的には微妙な感じでした。
とはいえ、前半部分だけでも元が取れるくらいの良書です。
本書を初めて読んだ時に特に印象に残ったのは「構造色」の話。
簡単に言えば「モルフォ蝶の羽の青」の原理です。
ネットで時々話題になるネタに「自然界に青色のモノは無い」という話があります。
実際には一部のウミウシや鳥などは青色を持つので、この話は全称命題としては誤りなのです。
ただ、時に見られる「海や空は青いではないか」「モルフォ蝶を知らないのか」という反論は、私としては微妙ではないかと思っています。
「表面色としての青」と「海や空の青」や「モルフォの青」はその発色原理からすると異なるものであって、前者の話をしている時に後者で反例とするのはいささか的外れではないか……という話。
詳しくは本書を読んでもらえれば納得頂けるのではないかと思います。
「科学としての”色”」について考えてみたい方にはオススメの本です。
色彩検定の自然科学分野には少し足りないくらいだと思うので、ガチでやりたい人は「入門書」と割り切って読んで下さい。
★NEXT STEP
色と色彩の科学
培風館, 2014/3/1
『色と色彩の科学』で「こういうのもっと読みたい!」となったらオススメしたいガチ系の本。
タイトルは「心理学」となっていますが、物理や生物の側面の説明も充実しています。
物理→生物→心理→応用という説明の構成はほぼ一緒で、こちらの方は説明の精度が全体的に二段階くらい上がってる感じですね。
割と難しいので、「色彩に興味がある」というだけで自然科学系の基礎知識が無い人が不用意に手を伸ばすと「よく分かんねーことをくどくど分かりづらく書きやがって!!」みたいになる危険性があります(というかAmazonレビューにそれと思しき人がいる)
色彩の基礎知識に加えて高校理科程度の知識があれば読みこなせると思います。
リファレンスがしっかりしているのもポイント。(著者のセルフ引用が多めですが)
狐太郎
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