柴田勝家
ニルヤの島
ハヤカワ文庫JA, 2016/8/24
BACKGROUND ――対象
第2回ハヤカワSFコンテスト(2014年)の大賞作品ですね。
著者の柴田勝家(ホントにそういうペンネームです)氏は本作で作家デビューした新人。
2016年には短編で星雲賞も受賞しています。
……と、受賞歴はSF一色ですが、著者は実は民俗学で修士号を取っています。
人文学と科学の融合したSFとは一体どんなものなんでしょうか。
METHODS ――筋書
あらすじ(「BOOK」データベースより)
人生のすべてを記録し再生できる生体受像の発明により、死後の世界という概念が否定された未来。ミクロネシア経済連合体を訪れた文化人類学者イリアス・ノヴァクは、浜辺で死出の船を作る老人と出会う。この南洋に残る“世界最後の宗教”によれば、人は死ぬと“ニルヤの島”へ行くという―生と死の相克の果てにノヴァクが知る、人類の魂を導く実験とは?新鋭が圧倒的な筆致で叙述する、第2回SFコンテスト大賞受賞作。
RESULTS ――所感
ピースがカチカチと嵌っていく感触、浮遊するような流動体のクライマックス。
読後はしばしの余韻に浸りました。
「なるほどこれは確かに人文学と科学の融合したSFだ」と納得。
伊藤計劃の『虐殺器官』『ハーモニー』とテーマやモチーフは非常に近いです。
伊藤計劃作品を楽しめた方なら楽しめるかと思いますが、こちらの方がややねっとりした世界観で根暗寄りな印象。
時代は、「人の記憶」が永遠を獲得した近未来。
舞台は、高度な科学力と民族の慣習が共存するオセアニアの島々。
外国からの研究者と現地の住人たち、という複数の視点から物語が紡がれていきます。
本書のテーマは「人は死んだらどこへ行くか」。
この物語の中での答えのひとつが「ニルヤの島」なのですが、それは一体何なのか。
人工知能、DNA、ミーム、利他性、自我、ミラーニューロン、サイバネティック、カーゴ・カルト、宗教、国際経済、民族問題、ゲーム理論、死生観、実存……
与太話の鉄板ネタを「これでもか」とばかりに盛り込んであり、その手のネタが分かる人ならニヤリとさせられるでしょう。言い換えると、かなり「読者に期待している」部類の本だと思います。
「与太話を与太話として楽しむ余裕があるかどうか」を試している気配すらあります。
そして、色々の話を散らしに散らした後、それを一つのストーリーにまとめていく手腕も見事。
(人によっては理論の飛躍も気になるようですが、私は「良く出来たホラ話」として消化できれば十分だと思いますし、その限りにおいて大きな齟齬は無いと思いました)
時系列がバラバラで書かれているため、一読しただけだとやや分かりにくい部分もありますが、ちゃんと出来事の順番を追えば全貌が見えるように仕組まれています。
(最後のところに個人的なメモを置いておきます。読後の整理にご活用下さい)
途中から気付きましたが、視点が変わることを文体の変化や非文でも表現しており、芸の細かさに舌を巻きました。
完結の仕方については他の方も賛否寄せていますが、途中をちゃんと読んでいれば十分に予見できる、そして十分に読み解ける結末かと思います。
とはいえ、ある種の救いがありつつも突き放すような結末を、「ハッピーエンド」とみなすか否かについては、読み手によって意見が異なると思います。
そんな多義性を包摂できるのも、また「物語」の力かもしれません。
書き終えてみると、紹介の内容が物語の構成やギミックの話にかなり寄ってしまいました。
実はもっと人文学的な面についても語り尽くしたいのですが、そちらはネタバレになるので「未読者に本書を薦める」という記事のコンセプトからは外れてしまいそうです。
読了した方は私と飲んだ時にでも「読んだよ!」と言って下さい。そして語りましょう。
CONCLUSION ――結語
「過去を繋ぎ合わせて出来事の真相を突き止める」というパズル的な楽しみ。
「生きる私たちは死後の世界をどう位置づけるべきか」という思索的な問いかけ。
重層的に楽しめる世界観を持った作品でした。
こんな人にオススメ
★伊藤計劃作品が好きな人
★リチャード・ドーキンスが好きな人
★文化人類学ネタが好きな人
柴田勝家
ニルヤの島
ハヤカワ文庫JA, 2016/8/24
※あくまで個人的な試みとして、時系列順に出来事を整理してみました。
ネタバレを含みますので、一読後に開いていただくと良いかと思います。
誰と誰が同一人物かなども軽くまとめてあります。
オマケ:関連書籍
本書の読解や評価をするに当たって一読に値すると思われる本を列記します。
全部読んだことがある方とは是非本書の感想を交換したいなぁ、などと妄想しつつ。
柴田氏自身がインタビューなどで言及していた本・作家
本書と似たギミック・テーマを持つ作品
狐太郎
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