動物の言い分 人間の言い分
角川oneテーマ21
2001/5/1
今週は動物の雑学ネタ。
一昔前に「〇〇な動物」みたいな本も流行ったりしましたが、本書は更にそれより一回りくらい前に出版されているので、動物雑学本の先駆けと言ったところでしょうか。
「動物を学ぶ本」というより「物知りおじさんの動物面白トーク」くらいの感覚で読めます。
章立ては一応あるけど、あまりそれに沿って構成がまとまっているわけではなし。それぞれの項ごとに動物についての小話が列挙されています。
列挙されている動物も、哺乳類からペンギンやカレイやクモまで、何でもあり。
本書を「ただの雑学の寄せ集め」以上のものにしているのは、「人間の見方は必ずしも他の種には適用できない」という一つのテーマを一貫して柱にしているからだと思います。
「変な動物」といった言い回しが近年は普通に見られるようになりましたが、個人的には「人間にはこれが当たり前だけど、こんな動物からみると違うよね」という視点の方が納得できます。
また逆に、何かに付けてすぐヒト以外の動物を持ち出して「動物の世界では~~するのが自然なこと」と主張する論も「動物」の多様性を過小評価しているということになるでしょう。
「動物」の多様性を認識すればするほど、「ヒト 対 (ヒト以外の)動物」という対比の仕方が極めて粗雑であることに気付かずにはいられないからです。
最終章「人間の論理」は、直球の動物学の話ではないものの、それまでの章で間接的に触れてきた「人間の見方」にまつわる話です。
中でも特に、先週紹介した『分類思考の世界』と相通じるような「分け方の話」が出てきたのはなかなか興奮しました。
そういえば養老孟司氏も解剖学の話に寄せて言語の話やオッカムの剃刀に言及していたなと。
「自然」と「言語」の間に生きる知識人は、やはりどこかでこの議論に行き着くようです。
……と、脱線しましたが、難しいことを気にせずに普通の動物雑学本として読んでも十分楽しめます。動物系バラエティ番組が楽しめる人ならきっと気軽に読み通せるはず。
「どうしてこの動物はこんな体のつくりになっているのか」といった話が好きな人にはオススメ。
ちなみに私が本書に出会ったのは「ウロコ」についての疑問がきっかけでした。
脊椎生物が
魚類→両生類→爬虫類→哺乳類
という順序で進化してきたという話は理科の教科書に載っています。(「魚類」という分類が現代的には不適切である、という主張についてはここでは脇に置いておきます)
しかしふと気付いたのです。
魚類と爬虫類には「ウロコ」があって、両生類には「ウロコ」が基本的に無い。
つまり中間だけ抜けていることになります。
これは一体どういうことなのか……と、調べていた時に出会ったのが本書です。
この疑問への答えも本書に載っているので、気になった方は手にとって見て下さいね。
ちなみに、幅広く様々なトピックに言及しているのはとても良いのですが、リファレンスが無いため知識の元ネタを辿れないのは残念でした。
そういう意味でも「学術の入門書」よりも「物知りおじさんのオモシロトーク」寄りですね。
★NEXT STEP
内科医からみた動物たち
カバは肥満、キリンは高血圧、ウシは偏食だが…
ブルーバックス, 2002/1/1
これ、私は生物系のブルーバックスでトップ3に入るくらい面白いと思ってたんですが、現在は新品で手に入らないようで……
「内科医から見た」と銘打っていますが、普通に哺乳類を網羅的に概観する動物学・博物学の入門書として読めます。
動物の紹介をする中で病気に関する話や臓器に関する話が出てくるのが良いアクセントになっています。
解剖学教室へようこそ
ちくま文庫
2005/12/1
行きがかり上、言及したのでここに提示しておきます。
主題として扱っているのは「解剖学」なので、見ての通り動物学との接点はあまりありません。
しかし、「自然界をヒトの認識によって切り分け、そこに名前をつける」という点で、解剖学と博物学は深層において非常に似通った学問のようです。そういうことを、本書は教えてくれます。
「解剖学」=「人体を刃物でバラバラにすること」という誤解を抱えていた私は、この本を読んで目が覚めるような思いをしました。
狐太郎
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