認知科学と人工知能はコインの裏表【新書読書】

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有田 隆也

心はプログラムできるか
人工生命で探る人類最後の謎

サイエンス・アイ新書, 2007/8/16

 

「認知科学と人工知能研究は、コインの裏表である」という考え方があります。

言い換えるならば、
認知科学「コンピュータとのアナロジーで人間の認知を解釈する」学問、
一方で人工知能研究「人間の認知をコンピュータで模倣する」学問、ということです。

 

本書のタイトルだけを見ると、いかにも「心をプログラムすること」が主題であるかのように見えますが、ここにはやや意図的なミスリードが混ざっています。これは後述します。

 

本書のカギとして繰り返し登場する概念は「創発」

これは簡単に言えば「いくつかの要素が集まることで、新たな機能や構造が生まれる」現象です。

「1+1は2じゃないぞ。俺たちは1+1で200だ!」みたいなやつですね。

 

本書の冒頭で筆者は「創発」の例として、「蟻の群れ」を挙げています。

蟻の群れはフェロモンによる連携で、全体として非常に効率的に餌集めをしています。100匹の蟻の群れがいたら、その群れは1匹の蟻が単独で集められる餌の100倍よりももっと多くの餌を集めることができる、ということです。

別の見方をすれば、「全体の挙動を観察するためにそれを部分ごとに分けたら、全体の挙動の本質は失われてしまうかもしれない」ということでもあります。創発という現象を切り出すためには、「群れを群れの状態として観察する」必要があります。

 

そして、本書で解明を試みている創発現象というのが、「プログラムの自律進化」です。

プログラム上の疑似個体に、生物のような生存・淘汰・生殖・遺伝といった属性を組み込むと、これらが相互作用しながら、あたかもダーウィンの進化をなぞるように「選択による進化」を遂げていく。

そして、プログラムで何世代も生存競争のシミュレーションを繰り返すと、人間が予想だにできなかった持った個体が生まれるというのです。

 

この「プログラムが自分で進化していく」という前半の話だけでも十分に面白いのですが、本書のメインテーマはその先です。

このように「他者との相互作用を自律的に進化させる」プログラムを作ったとき、そこに人間のような「倫理観」や「感情」が自発的に生起することはあり得るだろうか?

ここで本書のタイトルに立ち返ってきます。

『心はプログラムできるか』というタイトルに、私が良い意味で「裏切られた」と思ったのはまさにここです。

 

筆者は初めから「心をプログラムする」ことを試みていないのです。

本書の問題は「進化するプログラムが、自ら『心』を生み出すことはありうるか」ということ。

 

本書では「利他性」「恐怖」といった現象について部分的に成功を挙げています。

ヒトの心理現象の中から言えばごく一部ではありますが、個人的にはこの手法は非常にポテンシャルが高いのではないかという印象を受けました。何より面白い。

この分野が発展したら、生物学のみならず、心理学や倫理学にも大いに影響を与えることでしょう。

 

★NEXT STEP

道又爾,北崎充晃,大久保街亜,今井久登,山川恵子,黒沢学

認知心理学
知のアーキテクチャを探る

有斐閣アルマ, 2011/12/22

 

認知科学と人工知能研究の共進化については本書が非常に明快に解説しています。

近年の「認知科学に関連した話を雑学的に羅列した本」には枚挙に暇がありませんが、本書のように「認知心理学(認知科学)とは何か」に直球で答えている骨太な本はなかなかありません。

ある程度の読書体力があって認知科学に興味をお持ちの方にはオススメしたい入門書です。

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木村勝哉

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