「一ヶ月」の「ヶ」って何?【隙間リサーチ】

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明けましておめでとうございます。

相変わらず更新にムラがありますが、今年も変なペースで更新していこうと思います。

 

最近更新が減ってるなーと思っていたところ、Twitterで小ネタを拾ったのでまとめてみました。

 

タイトルの通りですが、今回は「~ヶ月」という言い回しの謎について。

もっと単純に言えば、「数字と月の間に挟まってる『ヶ』って何?」という話です。

 

「ヶ」=「箇」

コトバンク経由で「デジタル大辞泉」を読むと、面白い事が書いてあります。

「箇」の略体「个」を「ケ」と略したところから、「三ヶ月」のようにも書く。この「ケ(ヶ)」は、「介」から出たかたかなの「ケ」と同形になっているが、起源は異なる。

https://kotobank.jp/word/%E7%AE%87-456292より

つまり「○ヶ月」「ヶ」は、カタカナの「ケ」とは何の関係もなく、
元は漢字の「箇」の簡体字(略字)だったわけですね。

(なお、「箇」の読みは「ケ」ではなく「カ」です)

 

そして、この「箇」の説明に「助数詞」という言葉が出てきます。

これも掘り下げていきましょう。

 

日本語における数詞表現は、原則として「(基)数詞」「助数詞」からなります。

「三日」を例に取れば、
「三(サン)」の部分が「基数詞」で、「日」「助数詞」ということになります。

同様に、「三ヶ月」なら「三」「数詞」「ヶ月」「助数詞」ですね。

以降、「数詞」=「基数詞+助数詞」という分け方で用語の用法を統一します。※1

 

「○ヶ月」「ヶ=箇」「助数詞」の一部だということは分かりました。

では、「ヶ=箇」が入る助数詞にはどんな特徴があるでしょうか。

次の用例を見てみましょう。

(1a) 令和三年
(1b) 五カ(箇)年計画
(1c) 20世紀少年

(2a) 憲法第九条
(2b) 五箇条の御誓文
(2c) 十七条の憲法

察しの良い方にはこれ以上の説明は不要かもしれませんが、次の段で更にもうちょっと回りくどく話を掘り下げていきましょう。

 

「序数詞」と「数量詞」

早速ですが次の文を解釈して下さい。

(3) 僕は今月、三日だけ出勤した

この例文で、「僕」が出勤したのは何回でしょう?

a. 1回 b. 3回

 

実はこの例文はa,bのどちらでも解釈できます。

「a’.月の初めから数えて3番目の日に出勤した」という考え方と、
「b’.出勤した日の数を足し合わせると3になる」という解釈が出来るからです。

ここからは一旦、英語の話をしましょう。

aのように解釈する場合の「三日」は、英語では「the third day of this month」となります。

この「third」のように「~番目という意味を持つ」数詞「序数詞」と言います。

英語で習う「first, second, third…」序数詞です。※2

 

対してbのように解釈するなら、この「三日」は英語で「three days of this month」となります。

この「three」のように「数量的な意味を持つ」数詞「基数詞」とか「数量詞」と呼ばれます。

英語では「one, two, tree…」基数詞・数量詞です。

個人的な好みで、以降は「数量詞」で統一します。

 

3着のコートを試着した後に「third coatを買った」と言ったら「最後に試着した3着目を買ったんだな」ということになり、「three coatsを買った」と言ったら「3つとも買ったんだな」ということになります。

日本語にはこの区別が厳密でない表現が多いので日本の高校生は英作文等でよく間違えますが、「数量か順序か」「加算や減算が出来るかどうか」を考えると判別が容易になります。

例えば「three coats」は1着返品すれば「two coats」、1着増やせば「four coats」になります。
「third cort」は1着返品しても「second coat」にはなりません。(no coat(s)ですね)

「加減乗除」「数量」にしか行えない処理なので、違和感を覚えたら序数詞の可能性が大です。
「業界ナンバー2の企業」と「業界ナンバー3の企業」が合併しても「業界ナンバー5の企業」が生まれたりはしませんね。

このように「値を足し引きできるか」で「数量としての意味を持っているか」を考えると、初歩的な判別法として有効です。

 

「6次産業」とか言うクッソセンスの悪い用語を作った人はマジで反省して下さい。※3

 

話は「ヶ」の用法に戻る

前段では英語に「序数詞」と「数量詞」の区別がある(※4)ことを紹介しましたが、
日本語の「基数詞」にはこのような「序数詞」か「数量詞」かという区別がありません

助数詞を分離すると、「三」は「順序」の時も「数量」の時も「サン」あるいは「み(つ)」です

「二条城」の「二」は順序、「流星一条」の「一」は数量。
「一人前」の「一」は数量、「農家の四男坊」の「四」は順序。
「科学力世界一」の「一」は順序、「一点の曇りなし」の「一」は数量。

……文脈無しではなかなか分かりにくいですよね。

 

しかし、「順序か数量か」を明示する助数詞もあります。

例えば、「三日」という表現では「順序」か「数量」かは分かりません。
そこで、これを「三日目」とすれば「順序」であることが分かります。
「三日間」とか「三日分」とすれば、「数量」であることが分かります。

日本語には「序数詞」の概念が無く、ゆえに「順序」と「数量」を区別しうる表現は「助数詞」に委ねられる……というわけです。

さっきの英語の表現と合わせて、ここで整理していきましょう。

では、お正月で言われる「三ヶ日」はどうでしょう?

「1月3日」という「順序の上での1つの日付」を指すのではなく、
「1月1日から1月3日までの3日間」を指しますね。

つまりこれは「数量」の表現だという事がわかります。

そう、そして「三ヶ月」の「ヶ」もまさに同様ですね。

「ヶ」は「三月ではない」と明示し、「月を数えて三つ分」と示すためのものだったのです。

 

話が一周してきました。

つまりこのように、「順序ではなく数量であることを明示するための符号」というのが「箇/ヶ/カ」の役割だということです。

(1a) 令和三年
(1b) 五カ(箇)年計画
(1c) 20世紀少年

(2a) 憲法第九条
(2b) 五箇条の御誓文
(2c) 十七条の憲法

ここまで読んだ方なら、上記のaは「順序」の表現で、bは「数量」の表現だということが分かりますね。

そして、cはそれらを区別できない表記にしていますが、意味から考えると1cは「順序」で2cは「数量」だと考えられます。

日常的には「○ヶ月」が良く見られますが、「三ヶ日」「五カ年計画」の用法でも分かるように、「箇/ヶ/カ」は本来は「日」や「年」にも使える表現です。※5

他にも、「~箇所」「~ヶ国」などは日常的に馴染みのある表現ですね。※6

 

 

以上、「○ヶ月」の疑問に始まり、「三ヶ日」まで繋がるお話となりました。

三ヶ日の某日に一気に書いたのですが、挿図を作るのが面倒臭くて放っておいたらこんなに時間が経ってしまい……。

今年もこんな感じで行くと思いますが、宜しくお願い致します。

 

注釈

※1:Wikipediaの記事などでは「数詞+助数詞」としていることもあるので、併読する際には「その文献の中でどう整理されているか」を確認しておかないと混乱します。ご注意下さい。

※2:「序数詞」は「助数詞」と同音異義語で混同しやすいですが、全く別の概念なので注意。
英語には「序数詞」はありますが「助数詞」はありません。(単位を助数詞に含める場合を除く)
日本語には「助数詞」がありますが「序数詞」はありません。(ただし「序数詞に相当する数詞表現」は助数詞との複合によって実現可能)

※2:「第1次産業、第2次産業、第3次産業、全部足したら6や!」という安直極まりないネーミング。初めに由来を聞いた時は正気を疑いましたがマジらしいですね。「第」って付いてんだろ序数詞なんだよ足すんじゃねぇ。

※4:ちなみに、英語でも「第1章=chapter one」のように「それは明らかに数量じゃなく順序だろう」という用法で数量詞を使う例は一応あります。
あとはもっと身近な例ですが、時刻を表すような「3時=three o’clock」なども本来は序数詞であるべきですね。
「3時」という時刻は「1時と比べて何かを3倍持っている」わけではなく、単純に「2時より後、4時より前の時刻」という意味合いでしかなく、本質的には「順序」です。でも慣習的に時刻の数字は数量詞で表します。
「日本語には数量詞と序数詞の区別が無い」という文脈では、あたかも「英語では明確に区別されている」かのように書いてしまいましたが、実は英語でも区別は完璧では有りません。
「英語や仏語では区別して使い分けることが多いが、日本語では区別がない。日本語で区別する場合には区別用の助数詞を用いる」といった認識で良いかと思います。

※5:ちなみに、「2年間=2ヶ年」と同様に「2ヶ月=2月間」と考えると、「2ヶ月間」という用法は「ヶ」と「間」で意味の重複があり、この点ではやや不可解です。そしてこの「ヶ○間」という重複が「月」にだけ許容されているという点も興味深いように思いますが……今回はこの用法の出自までは調べきれませんでした。申し訳ない。

※6:なお、「字の使い分け」についてはルールに合わせて都度調整されるようなので、ここでは深入りしません。よろしければ下記記事なども参考に。
参考:https://kei-zu.hatenablog.com/entry/20050315/p4

おわりに

★ひとことまとめ

1. 日本語には「助数詞」はあるが、「序数詞」は無い

2. 英語には「序数詞」はあるが、「助数詞」は無い

3. 日本語は「順序」と「数量」を「助数詞」で区別する

 

☆このトピックにオススメの本

金田一春彦:

日本語(上/下).

岩波新書, 1988/1/20

 

一般向けなので説明は平易かつ丁寧でとっつきやすく、それでいて日本語学・言語学の基本用語も押さえられるようになっています。

トピックも発音・語彙・文法と一通りの切り口が揃っていて、日本語について網羅的かつコンパクトにまとめられていると思います。(今回扱った「数の表現」は下巻に収録されています)

多少古い本なのでアップデートが必要な記述もありますが、日本語を学ぶに当たって「最初の一冊」としては手頃なスターターセットではないでしょうか。

 

参考文献

Web(2021/1/3アクセス)
コトバンク「箇」https://kotobank.jp/word/%E7%AE%87-456292

書籍
金田一春彦: 日本語(上/下). 1988/1/20, 岩波新書

論文
濱千代いづみ. “天草版 『エソポのハブラス』 の助数詞と助数詞を含む数詞–国字本 『伊曽保物語』・天草版 『平家物語』 との比較を通して.” 岐阜聖徳学園大学国語国文学 29 (2010): 152-121.

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木村勝哉

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