【書評】つくられる偽りの記憶

【書評】つくられる偽りの記憶

越智 啓太(著):

つくられる偽りの記憶
あなたの思い出は本物か?

DOJIN選書, 2014/12/2

 

 

BACKGROUND ――対象

自分がもっている思い出は間違いのないものと考えるのがふつうだが、近年の認知心理学の研究で、それほど確実なものではないということが明らかになってきている。

事件の目撃者の記憶は、ちょっとしたきっかけで書き換えられる。

さらに、前世の記憶、エイリアンに誘拐された記憶といった、実際には体験していない出来事を思い出すこともある。

このような、にわかには信じられない現象が発生するのはなぜか。

私たちの記憶をめぐる不思議を、最新の知見に基づきながら解き明かす。

(Amazon商品説明ページより)

著者は犯罪心理を專門とする心理学者です。

「記憶」は認知科学や神経科学でも大きなテーマの一つですが、
本書では心理学の実験から「偽の記憶」というテーマに迫って行きます。

METHODS ――目次

第1章 その目撃証言は本物か?
一 目撃証言が冤罪をつくり出す
二 あとから入ってきた情報が記憶を書き換えていく
三 質問するだけで記憶が書き換わっていく

第2章 体験しなかった出来事を思い出させることはできるのか?
一 体験しなかった出来事の記憶
二 イメージするとフォールスメモリーが形成される

第3章 生まれた瞬間の記憶は本物か?
一 生まれた瞬間の記憶?――クリスチナの出生時記憶
二 人間は記憶をどこまで遡れるか
三 出生の瞬間の知覚能力
四 催眠で過去の記憶を思い出させることはできるのか
五 出生時の記憶を思い出させるとなにが起こるのか?

第4章 前世の記憶は本物か?
一 前世の記憶を思い出した人々
二 前世の記憶を思い出させる
三 前世の記憶を思い出すのはどのような人々か

第5章 エイリアンに誘拐された記憶は本物か?
一 エイリアンに誘拐された人々
二 エイリアン・アブダクション現象を解明する
三 エイリアン・アブダクションにあいやすい人の特性

第6章 本当に昔はよかったのか?
一 現在の自分が過去の自分の記憶を決める
二 人生が終わりに近づくと過去が輝いて見えはじめる

RESULTS ――所感

 

一見して多岐にわたる内容ながら、よくまとまっており、非常に気持ちよく読めます。

「フォールスメモリー」「ソースモニタリングエラー」といったキーワードを軸に、「現実の誤認逮捕」から「エイリアン」や「前世記憶」の話題まで持っていく流れも非常にスムーズ。

 

「目撃証言は聞き手の質問の仕方によって変わる」「話すうちに証人の中で偽の記憶が形成される」といった話は、犯罪捜査において非常に重要な知見であると同時に、「私たちの記憶がどのように形成され、保存されているか」という実態を映し出す一面もあります。

言語学的・認知科学的に非常に面白いと感じたのは、「質問文で使う冠詞が定冠詞か不定冠詞かによって、見ていないものを見たと誤答する確率が上がる」という論文です。

 

このように、フォールスメモリーの心理学実験は臨床的にも基礎的にも非常に興味深いものですが、後半ではこれを使ってオカルト現象なども説明していきます。

単純に「超常現象がありえない理由」を列挙する解説本などは定番ですが、本書では「アリエナイにもかかわらず、どうしてそのような主張をする人がいるか」にスポットライトを当てています。

私が読んできた限り、こちらの側面に光を当てた類書は少なく、本書のユニークな点と言えると思います。

 

近年は「脳科学」という言葉がもてはやされ、「記憶」を扱った本も、これらの神経科学や画像検査に基づいた本が増えました。

しかし本書で紹介されている論文などを見ると、純粋に行動心理学的な実験や質問紙の調査でも、まだまだ十分に興味深い知見がまだまだたくさん眠っていることを痛感させられます。

これらの論文が巻末でちゃんとリファレンスされ、辿れるという点も嬉しいですね。

CONCLUSION ――結語

犯罪捜査から日常生活の記憶、そして超常現象まで。「フォールスメモリー」は様々な場面で顔を出します。

私たちの記憶の脆弱性・曖昧さを科学的に解き明かしてくれる一冊でした。

こんな人にオススメ

★認知機能(特に記憶)に興味のある人

★犯罪心理学に興味のある人

★オカルトに興味のある人

 

越智 啓太(著):

つくられる偽りの記憶
あなたの思い出は本物か?

DOJIN選書, 2014/12/2

 

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狐太郎

読んでは書くの繰り返し。 学んでは習うの繰り返し。

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