今回はこちらの記事と姉妹編になっています。
【学習】軽い気持ちで学術論文を読もう ――論文検索のすすめ【隙間リサーチ】
前記事では、「論文の探し方」にフォーカスして紹介しました。
しかし、探してみると「論文自体の読み方」もライト層向けはあまり無いようで……。
こういうのって、みんな「習うより慣れろ」で研究室の先輩や教員から聞いて習得するのかもしれないですね。
というわけで今回は、あまり明文化されない「論文の読み方」をあえて書き出してみました。
「論文執筆の経験が無い学部卒社会人」や「意欲のある高校生」を対象としています。
論文の種類を知る
論文を検索していると、「Original article」と「Review article」という、大きく2種類の論文が出てくることに気付くかと思います。
「Original article」は、日本語で「原著論文」とか言われます。
新しい実験結果や発見を世界に広めるためのもので、いわゆる世間での「論文」です。
これについては次項以降で読み方を紹介します。
「Review article」は「総集編」みたいなものです。日本語で「総説」とも言います。
Original articleに比べると、あまり型が決まっていません。雰囲気は教科書に近いです。
Originalは「1つの論文で1つの事実」が基本となっているのに対し、Reviewは「1つのトピックについての多面的な情報」を整理して集めているので、初学者向きです。
ただ「自分の疑問のピンポイントな回答」を探す場合には、やや迂遠かも知れません。
それから、Review自体は「又聞き」のようなものなので、情報ソースとして参照するなら元の原著論文に当たらなければなりませんね。
雑誌によってフォーマットはまちまちですが、Reviewの場合にはタイトルやヘッダにその旨が書いてある場合が多いです。
(読めないようにあえて解像度を落としています。元論文はこちらからどうぞ)
また、PubMedならReviewだけ検索結果に表示する絞り込みも出来ます。
Google ScholarでReviewだけ出す方法は無いと思うのですが(あったら教えてください)、私は「キーワード + Review」などで検索しています。
自分の馴染みのないトピックについて論文を読みたかったら、
Reviewで大枠を掴む
↓
Originalで自分の欲しいピンポイントな情報や最新の研究を読む
が無難でしょうか。
ReviewとOriginalの性格を併せ持つ「メタアナリシスmeta-analysis」や、Originalの中でも特殊なフォーマットの「症例報告Case report」などもありますが、分野ごとに存在するマイナータイプのフォーマットまで紹介するとキリがないので、ここでは割愛します。
論文の基本構成を知る
さて、上述した「Original article」の読み方について、もう少し詳しく書いていきます。
科学論文は原則として「どんな情報をどこに書くか」が決まっています。
その中心となるのが、「要旨/序論/方法/結果/考察」という基本要素。
論文誌によって構成は若干変わりますが、ひとまずこの基本要素だけ押さえましょう。
要旨Abstract
本文の内容をぎゅっと短く要約しています。まずはここを読みましょう。
後述する「基本要素」がこの中にコンパクトに入っており、入れ子型構造になっています。
ここだけ読めば、「何が書いてある論文か」がだいたい分かるようになっています。
文献データベースにもこの部分だけは無料で公開されていることが多いですね。
序論Introduction
学術研究における「これまでのあらすじ」です。
「過去にどんな研究があったか」
「過去の研究で未解決の疑問は何か」
を明らかにすることで、「これからこの論文はこんな謎を解きますよ」と紹介する役割です。
さっき、「馴染みのない分野なら、レビューで一通りの知識を集めてから読むのも良い」と書きましたが、実はこの「Introduction」自体が「ミニ・レビュー」のような内容になっていることが多いです。
馴染みのない分野なら最初はじっくり読むと思いますが、同じ分野の論文を2,3本も読んでいると「なんだ、毎回同じことが書いてあるじゃないか」と読み飛ばせるようになります。
方法Methods
実験方法が書いてあります。
慣れるとここを最初に読む玄人もいますが、最初から気合い入れすぎてここから読むと挫折しやすいので、気楽に読む人は後回しにしても良いんじゃないでしょうか。
結果Results
クライマックス。実験結果となるデータを客観的に記載するのがこの段落。
論文の主役はここです。ここで何を言っているかが大体わかればOK。
情報収集の際には、いろいろな論文のResultsだけ読み比べても良いと思います。
考察Discussion
Resultsを解釈するのがこの段落。
Introductionで「未解決の疑問」を提起しているはずなので、原則としてその「謎」に対して「解答」を出す方向で話がまとめられていきます。
Resultsには「得られた客観的事実」しか書いてはいけないので、「この証拠品がここから出たということは……犯人はお前だ!」みたいな論はここで書くわけですね。
察しが良ければIntroductionとResultsだけで犯人が分かるので、Discussionは「大体の見当をつけて読む」のが良いと思います。
ちなみに、上記b~eの情報構造は、「Abstract」の中でも守られているのが一般的です。
つまり、例えば「Results」にだけ興味があるなら、「Abstractの中のResultsに相当する部分」だけを探して拾い読みする、といったことも可能です。
個人的なオススメは「Abstract→Results」の順で読んで、
手法で気になったことがある時→「Methods」
何がすごいのかいまいち分からなかった時→「Discussion」
前提となっている知識に疑問がある時→「Introduction」
という感じで疑問を解消するように拾い読みしていくこと。
論文の読み方は人によってスタイルがありますが、「頭から全部順番通りに読み下す」人は滅多にいません。何本も読む中で、自分なりのルーチンを確立してみてください。
要点を拾い読みするコツ
ほとんどの科学論文は上記の「基本構成」に則っているので、その枠組の中でルーチンを確立すれば、自然と速く読めるようになってきます。
これらの「基本構造に則った拾い読み」の他に、個人的なコツをいくつか紹介します。
「使えそう」と思うテクニックがあったら是非取り入れてみて下さい。
図と表を先に読む
Abstractを読んだら、Resultsは文章より先に図と表を見てしまいます。
書く側の心情として、「自分の一番アピールしたい結果を、一番目立つ表現で図表にしよう」と思うのは自然なことです。
そこを逆算して「図表に大事な物が含まれやすいはず」というテクニックです。
(こちらも内容が読み取れない程度に画像を荒くしています。元論文はこちらをどうぞ)
「いきなり図を見ても分からない」と思うかもしれませんが、プロットした図には原則として「何を図示したものか」が短文で添えられています。
それでもイマイチ分からなければ、本文の中で図表に言及しているところを探す([Fig.4]などで本文検索)という手もあります。
図になっていない部分にも大事な情報が含まれることはありますが、最初に「図表を理解するのに必要な情報」から優先してResultを拾い読みしていくと、実験の要点が効率的に掴めます。
実験系では割と広く通用するテクニックですが、理論系では通用しにくいのが欠点。
「何を比較しているか」を意識する
科学研究は客観性が大事なので、「比較」を用いるのが基本です。
「こういう工夫をしたら車が速く走るようになりました!」では科学になりませんよね。
「工夫Aを加えた車と加えない車を、1分間の走行距離で比較したら、○kmの差があった」といった具合に、「比較」するのが基本フォーマットの一つです。
『何と何を比較したか』『何の尺度で比較したか』を拾い出すと効率良く論文が読めます。
前提となる知識があれば、「何の比較をしているか」を読むだけでも論文の要点が掴めるようになるので、「慣れたら最初に読むのはMethodsでいい」と断言する方もいるくらいです。
「新規性」だけを拾い出してみる
これは、同じ分野の論文を何本か読んだら是非意識して欲しいポイントです。
興味に沿って特定の問題に関わる論文を何本か読んでいると、Introductionなどはホトンド同じであることに気付くと思います。
「同じようなことをやっている論文」の「同じような部分」を何度も読むのは無駄が多いので、「今まで読んだ論文に無くてこの論文にだけあること(=新規性)は何なのか」を抽出するように読んでみましょう。
原則として、査読を通った科学論文であれば「この論文で世界初のこと」が必ずあります。それが科学論文の使命ですから。
狙い目は「Introductionの末尾」と「Discussionの冒頭」、そして上でも触れた「図表」です。まずはここら辺を中心に、「この論文は何が世界初だと言っているんだろう」と探してみてください。
以上、これから論文に挑戦する人向けに、即効性のあるポイントに絞ってみました。
日常の疑問を科学論文で解決出来るようになると楽しいと思うので、英語が読める方は是非挑戦してみてください。
要望があれば実践編も書こうかと思いますが、長くなってしまったので今回はここまで。
★ひとことまとめ
Original articleの基本構成を知ることが読解の近道
☆このトピックにオススメの本
桑田 てるみ:
学生のレポート・論文作成トレーニング:
実教出版, 2015/1/1
「書く人」向けの本ですが、論文の「型」や、引用の必要性、科学論文のコンセプトなど、基本的な考え方が一通り学べます。
高校生や大学1年生が最初に押さえるべきポイントがコンパクトにまとまっています。
薄くてすぐ読めるので、必要に駆られて読む人にも優しい。
名郷 直樹:
名郷直樹のその場の1分,その日の5分.
日本医事新報社, 2015/3/6
研究者以外で「疑問を解消するために、科学論文を探し、読む」という作業を頻繁に行う職種の一つが「臨床医」でしょう。
本書は、論文の読み書きが「本業」でない人に向けて「如何にして科学論文を効率よく利用するか」を提示しています。
医学生は論文指導を受けずに卒業してしまう人も多いので、本書の有用性は高いはず。
参考文献
今回は特にありません。
特定のサイト・文献のスクリーンショットについてはその都度リンクを付記しました。
狐太郎
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