ちょっと前から筋トレを始めました。
ジムにもたまに引き締まった身体の方がいますが、テレビで見るようなプロスポーツ選手の肉体はやっぱりすごいですよね。
ところで、一流のアスリートでも並べてみると競技によって結構体格の印象が違います。
(試しに「tennis athletes」とか「サッカー選手」とかで画像検索してみましょう)
長距離走の選手は全体的にとてもスリム。重量挙げの選手はムキムキです。
テニスやサッカーや野球など球技系は比較的バランスが良いですが、テニス選手の腕やサッカー選手の大腿は特に太く感じますね。
どうして競技によって体型に差が出るのでしょうか。
プロのスポーツ選手ともなればどの競技の選手でも全力でトレーニングをやっているはず。
トレーニングを怠っているから細いわけではありません。
今回は「筋肉の種類」がテーマです。
1.筋肉には「瞬発力の筋肉」と「持久力の筋肉」がある
いやもう最初から結論なんですけれども。
筋肉の線維には2種類(細かく分ければ3種類)の区別があるんですね。
「持久力の筋肉」はST(Slow-Twitch)と呼ばれます。日本語では『遅筋』でしょうか。
「瞬発力の筋肉」はFT(Fast-Twitch)なので『速筋』ですね。
FTがさらに2つに分かれます。
FR:Fast-twitch fatigue Resistant=瞬発力があって疲れにくい筋肉
FF:Fast-twitch Fatiguable=瞬発力があって疲れやすい筋肉
「疲れにくい」といってもSTほどの持続力は流石にありません。
(STを「type I」、FRを「type IIa」、FFを「type IIb」と呼ぶこともあります。)
(あまり直感的でないので、ここでは「遅筋」「速筋(a)」「速筋(b)」と表記します。)
つまり、こんな得意・不得意があるのです。
瞬発力は 遅筋<速筋(a)≦速筋(b)
持久力は 遅筋≧速筋(a)>速筋(b)
2.配合バランスが筋肉の性質を決める
では、短距離選手の脚は速筋で、長距離選手の脚は遅筋で出来ているということでしょうか
そんなに簡単な話ではないようです。
筋肉は、ものすごく細い線維(筋線維muscle fibres)が束になって出来ています。
この「一本一本の線維」が「遅筋、速筋(a、b)」のいずれかなのです。
高校のクラスに例えれば、「一つのクラスに理系の子と文系の子がまぜこぜになっていて、クラス全体の平均点として『文系科目の得意なクラス』や『理系科目の得意なクラス』といった傾向が出る」といったところでしょうか。
古典的な論文ですがこんな画像があります。
遅筋(ST)、速筋(FT)がまぜこぜになって並んでいるのがよく分かります。
一流アスリートの筋肉でこのような「筋肉の配合バランス」を調べると、
競技によって傾向があるようです。
例えば、長距離走や水泳の選手は遅筋の比率が50~80%くらい(つまり速筋は20~50%)、
重量挙げや短距離走の選手では遅筋の比率が40~60%くらい、といった感じ。
(文献の書籍4および論文1より)
また、原則として速筋の方が遅筋より「太くなる」ので、
速筋の比率が高い人ほど「太い筋肉」に見えます。
これも何となくイメージと一致していますね。
マラソン選手の脚は細く、短距離走選手の脚は太い。
ボディビルダーにはプロのスポーツ選手より大きく立派な筋肉を持った人がいますが、
おそらく彼らは速筋を中心に肥大させていることになるのでしょう。
3.目的の筋肉を鍛えるには?
原則として、身体の運動に最適な筋肉が使われる傾向にあるようです。
すなわち、
「遅筋」は「強度が低く長い運動」
「速筋(a)」は「強度が高く長い運動」
「速筋(b)」は「強度が高く短い運動」
で、よく使われるということです。
筋肉の線維は「大きくなるが、数は増えない」という説と「大きくなるし、数も増える」という説があります。
仮に前者が正しいとしたら、最初から「速筋40%」で生まれてきた人が「速筋80%」で生まれてきた人に重量挙げで勝つのはかなり難しそうです。
上で紹介した「一流アスリートの研究」の欠点は、「トレーニングしてその域まで達した」のか「適した筋比率を持って生まれたから一流になれた」のか分からない、という点です。(いわゆる「バイアス」ですね)
上記の仮説のどちらであるかの結論は未だ不明瞭です(下記の参考文献でも両方の立場が見られます)。どちらを支持する結果もある以上、「生まれつきの影響もかなり大きいようだが、トレーニングで変化する余地はある」が現時点での落としどころでしょうか。
「速筋」と「遅筋」の筋線維の比率は生まれつき決まっている部分が強いかもしれない、とも言われる中で、速筋(a)と速筋(b)は相互に変化することが知られているようです。(書籍2より)
「激しい運動」を継続的に行うことで、「強度が高く長い運動」に耐えられる「速筋(a)」の比率が増えるらしいのです。
上記の成書によれば、その「激しい運動」は持久力を要する運動に限らず、ウェイトトレーニングのような最大負荷系のものでもよいとか。
ただし、一度速筋(a)になっても、トレーニングを怠ると「最大筋力は強いがすぐに疲れる」速筋(b)に戻ってしまうようです。
生物の身体は無駄を省きたがります。「最大筋力は強く疲れにくい」という上等な筋肉は「穀潰しになるだけならあまり養いたくない」ヤツなのかもしれないですね。
何はともあれ、原則として「使うほど筋肉ほど鍛えられる」という傾向は確かにあるので、狙った筋肉を用途に合わせたトレーニングで鍛える意味はあるでしょう。実際、プロのマラソン選手からのサンプルでも「筋肉の配合バランスだけ見ると普通」という人もいるようです。
球技ではその多くが「瞬発力」の要素と「持久力」の要素を持っているので、例えば「漫然とランニングだけ」やるようなトレーニングより、「マラソンとダンベル」のような織り混ぜ方の方が効率がよいのではないかと思います(これは主観です)。
ちなみに、「持久力の向上」には代謝や呼吸も含めた全身の変化が影響するので、筋の変化だけでは説明できない部分も大きいです。これについては機会があれば後でネタにしますね。
★ひとことまとめ
遅筋は「力は弱く、疲れにくく、細い」
速筋は「力は強く、疲れやすく、太い」
「力が強く、疲れにくい」筋肉は、トレーニングで増やせる
☆このトピックにオススメの本
勝田茂編著, 和田正信, 松永智著 : 入門運動生理学 第4版. 杏林書院, 2015.
初学者に分かりやすい入門書。ハードルは低く、話題は広く網羅しています。
参考文献
書籍
1)勝田茂編著, 和田正信, 松永智著 : 入門運動生理学 第4版. 杏林書院, 2015.
2)浅田勝己 : 運動生理学概論 第2版. 杏林書院, 2013.
3)征矢英昭, 本山貢, 石井好二郎 : これでなっとく 使えるスポーツサイエンス. 講談社, 2002.
4)McArdle WD, Katch FL, Katch VL 著, 田口貞善, 矢部京之助, 宮村美晴, 福永哲夫監訳 : 運動生理学. 杏林書院, 1992.
論文
1)Gollnick PD, Armstrong RB, Saubert CW 4th, Piehl K, Saltin B : Enzyme activity and fiber composition in skeletal muscle of untrained and trained men. J Appl Physiol. 1972 Sep;33(3):312-9
2)Gollnick PD, Piehl K, Saltin B : Selective glycogen depletion pattern in human muscle fibres after exercise of varying intensity and at varying pedalling rates. J Physiol. 1974, 241, pp. 54-57
狐太郎
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