西洋美術史入門
ちくまプリマー新書
2012/12/5
結構前から積んでた本なんですが、最近ようやく読みました。
あまりの面白さから一気に通読し、そして後悔しました。
「アノ本やソノ本に手を付ける前に、この本を一番最初に読めばよかった!」と。
本書の「分かりやすさ」は美術史本の中でもピカイチです。
あまり話題や情報を散らかさず、一つの読み物として読める構成になっているからでしょう。
大学1年生向け講義をベースにしているということですが、気楽なトークを聞いている気分でどんどん読んでいけます。
「絵は好きだし美術館も好きなんだけど、あのパネルにある解説がいつもバラバラっと頭の中に散逸しちゃうんだよなー」という私のような人に、どうか最初に読んでほしいです。
また、一度出てきたトピックが後で色々に”繋がる”ところも多く、有機的な知識体系がしっかり頭に残るのです。
何と言っても↓この手の文章がスルッと読めるようになっていた自分に気付いた時の驚き。
ハンス・メム リンクに代表されるアレゴリックな主題の多用もこの地域の特徴ですが、なんといってもブリューゲル一族は風俗画、静物画、風景画の三分野で先駆的な作品を多く 残しており、一七世紀オランダにおけるこれら三分野の自立につながる土壌を用意した点で、傑出した存在感を放っています。
私もこういう衒学的な美術語りには苦手意識がある方だったんですが、本書を読み進めるうちにこうした概念を用いた解説が普通に読めるようになっていました。
これを読むと、「あのパネル」が「小賢しい奴らがマウンティングに使ってくる小難しい薀蓄」ではなくなりますし、他の美術史の本にも抵抗なく進んでいけるようになると思います。
本書は一貫して「その絵がなぜ描かれたのか」という観点を主軸にしながら、「美術」と「社会」を繋ぐ見方を教えてくれます。
更に言えば、「なぜ」の中でも特に「どういう需要があってその絵が売れたのか」というトピックが手を変え品を変え登場します。これが非常に面白いところ。
現代に生きる我々はつい忘れがちですが、つい近代になるまで、「芸術」は「依頼を受けて描くもの」「売るために描くもの」というのが大原則だったんですね。
必然的に、「ある時代にどんな芸術が流行したか」には「当時どんな人がお金を持っていて、何のためにお金を出したか」が非常にダイレクトに反映されているということになります。
カトリックがプロテスタントと差別化すべくキリスト教芸術に力を入れた時代には、聖人や聖母マリアを賛美する芸術が一層強調される。
貴族や教会ではなく市民が絵画を買って普通の生活空間に飾るようになると、身近な人物や空間をモデルにした作品が流通するようになる。
個別の例は色々挙げられていますが、それらを通して根本的な「芸術と歴史の関連を読み解く方法」を教えてくれる、というのが本書の素晴らしさです。
「世界史の中のマイナージャンル」としてではなく、「アートの薀蓄を語るための情報」としてでもなく、「社会とアートの接点」として美術史の面白さに触れることが出来ます。
「芸術」に対して「浮世離れした、金銭的なものとは無縁な、高尚で理解しがたいもの」というイメージを持つ人は少なくないですが、本書を読むと、これが極めて近代的で特殊な状況の下に形成されたイメージであることを痛感できます。
芸術家の性格や人格がどうであるかは別として、「表現は伝わってこそ意味があるもの」だし、「作品は人に向けて作られるもの」だし、「視覚芸術は文字の読めない人もターゲットに入れた裾野の広い表現物」なのですから。
そもそも美術史なんて「人類数千年における覇権コンテンツの美味しいとこ取り」なんだから面白くないわけがないんですが、それを特に「どう楽しむか」という例を鮮やかに提示してくれるのが本書のような入門書だと思います。
美術史は「点と点が線になる快感」を堪能できるコンテンツなんですね。
しかもコンテクストとコンテンツの果てしなさは随一と来ている。
確かにこれはとんでもない沼だな、と納得しました。
★NEXT STEP
怖い絵
レーベル 出版年月日角川文庫
2013/7/25
往年のベストセラー。……ですが、実は途中で放り投げて積んでたんですよね……。
何と言ってもコンテクストがバラバラで、いきなりだと読みにくい。
個別の作品の背景情報について解説するだけで、全体が一つの流れになっていないのです。
『西洋美術史入門』を一読してから再読したらめちゃめちゃ読みやすくなってました。
『西洋美術史入門』が「総論」だとしたら、こっちは「各論」の本なわけで。
先に世界史か美術史を軽く触って、全体像を掴んでからこういう本を読むと良かったんですね。
イメージの歴史
ちくま学芸文庫
2012/3/1
「いかに芸術作品が世相の影響を受けているか」
「いかに芸術作品が世相に影響を与えることを意図しているか」
こういった視点は『西洋美術史入門』でも繰り返し提示されていますが、この観点からの議論をひたすら掘り下げているのがこちらの本です。芸術作品の紹介点数は抑えめで、むしろ「芸術に影響を与えた、その時代の価値観や精神性の変遷」の方に力点が置かれています。
ちょっと「それは断言までしていいんか?」「流石に言い過ぎで、全く共感できない」という部分も多少ありますが、全体としては勉強になりました。
フェミニズム色がかなり強いので、苦手な人は気を付けた方がいいかも。
狐太郎
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