「貧困」と「性風俗」と「知的障害」の密接な関係【新書読書】

「貧困」と「性風俗」と「知的障害」の密接な関係【新書読書】

坂爪 真吾

性風俗のいびつな現場

ちくま新書, 2016/1/7

 

「性産業のことあんまり知らんなー」と前々から思ってたので、性風俗についての教養が欲しいなと思って何冊か購入しました。

性風俗の話って、何でみんな「まぁこのくらい常識でしょ」みたいなツラして語るのに、利用有無の話になると「いや俺は行ってないけど」って言うんでしょうね。

「体験してないけど知っている」ということは、みんな実は読書家なのでしょうか。

 

本書は性産業に関わる色々な立場の人々への取材をまとめたルポ集となっています。

性産業に関する基本的な用語や知識は知っている前提で書かれているので、「デリヘルって何するんですか」とか「普通一回何万くらいなんですか」みたいな話から知る必要がある人は、私が下で紹介しているようなもっと基本的な本を読んでからの方が良いと思います。

 

本書で取材をしている顔ぶれは以下の通りです。

・地方都市のデリヘル経営者
・妊婦・母乳専門風俗店経営者
・風俗口コミサイト管理者
・激安店に在籍していた風俗嬢
・会員制高級交際クラブ利用者
・「鶯谷デッドボール(※1)」経営者
・歌舞伎町を知るジャーナリスト
・熟女専門風俗店経営者
・風俗関係のウェブデザイン事業者
・デリヘルでソーシャルワークを行った事例紹介

一見して分かる通り、いずれもなかなかクセのある店・人物が多いです。

普通に生活していたらなかなか話を聞けないような方々に取材しているので、例えば普段からよく風俗店を利用していて「風俗のことはそれなりに知っている」という方でも新鮮に読める記事が多いのではないかと。

「へぇ、そういう風に経営してるんですね」とか「こういう人もいるんですね」という感じで、「大人の社会科見学」といった雰囲気でも読めます。

取材対象の面子を潰さないように書いているためか「その言い分は鵜呑みにしちゃダメだろう」とか「これを肯定的に書くのはどうなんだろう」と思う記述も無いわけでは無いけど、そこは各自の脳内でツッコミを入れながら読むべきなんでしょうね。

 

ルポとして読む分には非常に興味深い題材が多い反面で、裏を返せば本書で取材されているような店が「性風俗における典型」だとは考えにくい、というのが欠点でもあります。

少なくとも、本書だけを読んで性風俗やセックスワーカーについて一般論を述べるべきでないでしょうね。

もちろん個別事例としてはいずれも興味深いのですが……。

 

また、「性風俗は必要に応じて女性をソーシャルワークに繋ぐべき」という点は同感なのですが、性風俗が”セーフティネットを編み上げるために必要な『命綱』の一本にはなり得る”という論旨にはどうも最後まで納得出来ませんでした。

「風俗における問題の解決を社会資源に求める」ことは積極的に肯定すべきだけど、それを「社会における問題の部分的解決を風俗に期待する」ような論法に転倒してはいけないのでは。

 

「社会的に排除された女性たちに雇用の場を創出している」というのは詭弁にすぎない。社会的に排除された女性の支援は行政や福祉の仕事であって、風俗がそれを肩代わりする必要も義務もない。

前半でこのセンテンスを目にした時には「全くその通り」と思ったのに、結局これに対するちゃんとしたアンサーは出ないまま、気付いたら筆者は手のひらを返しながら盛り上がっていて、何だか置いていかれた気分で読み終えました。

 

筆者は「ルポ以上のもの」として本書を書かれたようですが、私は「あくまでルポとして」の評に留めます。

社会論として真面目に読めるかどうかはちょっと保留ですね。

 

※1:「地雷専門店」を掲げており、ネットでも有名になったデリヘル。

 

★NEXT STEP

中村 淳彦

図解 日本の性風俗

メディアックス, 2016/4/27

 

私の知識が薄いので今回は「次の一冊」というより「先にこれで予習しておけ」みたいな一冊です。(たまにはこういうこともあるということで許して下さい……)

風俗の業態や仕組みについて一通りの基礎知識を得るために読んだ本ですね。

「ソープ・デリヘル・ピンサロとかって区別があんまり良くわかんないんだよね」とかそういう感じなら絶対こっちから読んだ方が良いです。

業界の一般的な構造について書いているので、「大体この業種だと中央値の稼ぎがこのくらいで、店のトップでこのくらい」みたいな話も豊富です。

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狐太郎

読んでは書くの繰り返し。 学んでは習うの繰り返し。

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