フーコー入門
ちくま新書, 1996/6/1
今回は「素人として哲学書・思想書を読むこと」についてのお話。
「○○入門」的なダイジェスト版の解説書について、哲学を専門とする方々は各々一家言お持ちかと思います。
「原著を原語で読んで自分で解釈しなきゃ話にならん」という方もいらっしゃるようです。
しかし、「2チームが互いに9人以上揃えてプレイするのが野球だ! それ以外のニセモノは認めん!」などと言い出したら、バッティングセンターも大衆向けスポーツ用品店も潰れてしまうでしょう。
哲学にも「アマチュアにはアマチュアの楽しみ方」があると思います。
今回の記事は「アマチュアとして、思想書・哲学書という人類の資産を『普通の人』が楽しむ」ことに主眼を置いていることをご理解下さい。
「普通の人」が哲学に興味を持つ上で一番重要なのは、「ポジティブな気持ちで手を出せる」ことだと思います。
単位に追われている学生ならいざ知らず、「普通の日常生活」の中に置かれる「普通の人」が手を出すのに、「難解で辛く苦しいだけのコンテンツ」にわざわざ魅力を感じるはずがありません。
「その入門書を読んだ人が、その哲学者の本を手に取りたくなる」、そんな入門書が理想です。
更に言うならば、
「どんな問題にヒントをくれる思想か」
「どんな読者がどんな本から読むべきか」
「どんな哲学者との関連で捉えると理解しやすいか」
こうした点について手がかりをくれる、いわば「案内標識のような」本が「良い入門書」なのだと思います。
その意味で、この『フーコー入門』は正しく「案内標識」の役割を果たす本だと思います。
(他の特定の入門書を非難する意図は無いですが)まず「彼の人生や遍歴や人間関係にスポットを当てすぎていない」というのが非常に読みやすい。
あくまで「著書に沿って」思想の変遷を辿ってくれているので、どの時期の著書でどういう思想を記したのかが分かりやすく、興味のある本から手に取るのに役立ちます。
なおかつ、この本一冊を通してフーコーの思想が一本の道筋として示されているので、この本を参考にしてフーコーの著書を1,2冊ピックアップした場合でも、それが「彼の生涯の中でどこに位置づけられる書なのか」というのが俯瞰的に捉えられるようになっています。
倫理の教科書や、西洋哲学史のまとめ本では、どうしてもフーコーは「狂気と理性の線引きを見つめ直した」くらいでまとめられてしまいがちですが、彼についてそれだけしか知らずに通り過ぎてしまうのはあまりにもったいない、と本書を読んで感じました。
フーコーは「私たちの思考は、私たちが思っている以上に時代に規定されていて、そこに自覚的になればまだまだ自由になれる余地がある」ということを示そうとし続けた……と、私は理解しました。
彼の言論の是非も、私の理解の正否も、人によって色々な受け止め方があると思います。
それでも、「哲学者は頭が固い」というイメージを持っている人には、せめて実際に「哲学書」と呼ばれるような本に手を出してみてほしいと思います。
「哲学は柔軟な思考の手助けをする」という実感を得てくれる人が増えたら、私は嬉しい。
★NEXT STEP
知の教科書 フーコー
講談社選書メチエ, 2001/5/10
「独学は読み方に誤りや偏りが出る」というのはよく言われる話ですが、個人的には「じゃあ色んな人の『偏り』を取り入れて中和すればいいんじゃねーの」と思ってます。
少なくとも「偏ることを恐れる」よりも建設的な進み方ではないかと。
こちらの本も比較的易しい入門書で、初学者がフーコーの大枠を掴むのに適していると思います。
こちらも代表的な著作の流れと立ち位置を押さえているので、中山先生の本と同じく「フーコーの著書にこれから手を出す人のための読書案内」としても使えます。
フーコーは代表作の多い思想家でもあり、「一冊読むならとにかくこれ!」という本を決めにくいので、こういう解説書を読んでみて、自分が一番楽しめそうな本から手を出してみるのが良いと思います。
狐太郎
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