考える血管
細胞の相互作用から見た新しい血管像
ブルーバックス, 1997/6/20
高校生物の教科書と学術的な医学書の中間くらいのレベル。
こういうのはブルーバックスのお家芸ですね。
著者の児玉龍彦氏は基礎医学研究で非常に有名な方です。
本書も、題材は「生活習慣病」という比較的一般ウケするものでありながら、アプローチとしてはゴリゴリの生物学で解説されています。
生半可な「健康マニア」程度では、本書には歯が立たないかもしれません。
「分かりやすい健康本」か「難しいけど格闘すれば分かる本」か……その分水嶺に立ちはだかるのが、ちょうど本書のような本なのだと思います。
本書のスタイルとして、医学研究のプロセスを非常に丁寧に書いていることが挙げられます。
「歯が立たない」と言ったばかりではありますが、分からない言葉を調べ、本文を丁寧に読んで行けば、きちんと理解できるようになっています。(それ以前の中学理科程度の知識は必要)
マクロファージ、リン酸化、血管透過性、酸素需要といった高校生物レベルの基礎知識から出発して、高血圧、糖尿病、がん、といった実際の疾患の仕組みまで見通せます。
出版が1997年とやや古いのが欠点ではありますが、「研究におけるナラティブ」が中心を占める本でもあるので、時代を超えて読まれる価値があると思います。
その証拠に、多くの古い本が電子化を見送られる中、本書はしっかりKindle入りしています。
これも著者の児玉氏が、研究者としても語り手としても非常に優れているが故でしょう。
それでもやっぱり「新版としてリニューアルしないかなー」という希望は捨てきれません……
放射能の本ばっかり書いてないでこの良書をアップデートして下さい……お願いします……
★NEXT STEP
現代免疫物語
花粉症や移植が教える生命の不思議
ブルーバックス, 2007/4/20
分野は少し違いますが、こちらも著名な基礎医学研究者による一般向けの医学本。
しかしナラティブであるだけでなく、これ一冊で「免疫学」という学問領域をほぼ一通りカバーするくらい、医学知識を得る上でもしっかりした本です。
高校生物が分かれば読める、そしてこれを一冊読めば免疫学の学術書や専門的な講義もかなり分かるようになる。そんな素晴らしい「橋渡し」の本です。
現在新品が手に入りにくくなっていることと、電子化していないことだけが残念。大学の図書館とかにあったら是非お手にとってみて下さい。
狐太郎
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