4人の王:シャルルマーニュ、カエサル、ダビデ、アレクサンダー【隙間リサーチ】

さて、今回はいきなり問題です。

・シャルルマーニュ

・カエサル

・ダビデ

・アレクサンダー

この4人、いずれも有名な歴史上の王や為政者であります。

さて、この4人の共通点は何でしょう?

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正解は、「トランプのキングのモデルになっている」です。

でも更に正しく言うと「と、言われている」です。

今回のテーマは「トランプのキングはどこから来たのか」

そして、「そもそもトランプはどこから来たのか」です。

目次

1. トランプの起源は?

2. 4人の王はいつからトランプに組み込まれた?

3. 余談1:トランプとタロット

4. 余談2:トランプと花札

★ひとことまとめ

☆このトピックにオススメの本

1. トランプの起源は?

トランプの起源は諸説あるものの、現在では中国起源が有力のようです。

起源と目されているのは、9世紀の中国の「葉子戯leaf game」というカード。

これがヨーロッパに伝わってきて「トランプ」の形になったというのが今の主説です。

14世紀中に(おそらくインドやアラブ圏を経て)ヨーロッパに伝来した「トランプの原型」は、15世紀の間にはヨーロッパ各国に広がり、それと平行して多様なバリエーションが生まれました。

トランプの4つのマーク(スートSuit)はそれぞれの国で微妙な違いがありましたが、現代ではフランス版の「ハート・ダイヤ・クラブ・スペード」の4種が定着しました。(後述)

とはいえ、ホトンドの地域のカードで4種のシンボルは概ね共通しているので、比較的早い時期からその原型があったのだと思われます。

各記号の原型は次の通り。

ハート:聖杯

ダイヤ:硬貨

・♣クラブ:棍棒

・♠スペード:剣

実際、イタリア版などではこれらのシンボルがほぼそのままの形で描かれています。

Modern deck formats (Playing cards) – Wikipedia

なお、上記の4つのシンボルが「宗教者」「富豪」「農民」「騎士」という階級とも対応している、という説もありますが、こちらは記録からの検証が難しいので、「仮説」として紹介するに留めます。

2. 4人の王はいつからトランプに組み込まれた?

ここで今回のタイトルの問題です。

ハートのキング」のモデルが「シャルルマーニュ(カール大帝)」だという話があるそうで。

※たまに「シャルルマーニュCharlemagne」が「カール大帝」の異名だと思っている方がいます。
 「Charle」の発音がフランス語読みだと「シャルル」、ドイツ語読みだと「カール」だというだけです。
  ちなみに英語だと「チャールズ」。スペイン名なら「カルロス」に相当します。
 「magne」はラテン語の「magna=偉大」から来てるので、意訳して「大帝」というわけ。

この「ハートのキングのモデルはシャルルマーニュ」という話を掘り下げていくと、「4種類のキングそれぞれにモデルがある」という噂話が出てきました。

それによれば、

ハート:シャルルマーニュ

ダイヤ:ユリウス・カエサル

・♣クラブ:アレクサンダー大王

・♠スペード:ダビデ王

という話です。(ググると無数に出てきます)

さて、ここまでは有名な雑学ネタみたいで、ググると色々なネット記事に書いてあるんですが、意外とそういうサイトに限ってソースが書いてないんですよね。

そして、この並びに初見で違和感を覚えた人も多いんじゃないでしょうか。

時代も地域もバラバラだし、そもそも一人は「王」でもないし……。

共通点といえば「欧米で有名な偉い人」ということくらい。

実は、元々のトランプには「王」「女王」「従者」の3役(あるいはそれに相当する札)はあったものの、そこに人物などは特に当てられていなかったようです。

Animal tarot card deck, printed by Waisenhausdruckerei Mannheim, c. 1778. Reiss-Engelhorn-Museums, Mannheim.

歴史の有名人を「ジャック」「クイーン」「キング」に勝手に当てたバージョンが流行ったのは、19世紀のフランス。その時に当てられた人物には色々な種類があって、結果的に上記の4人のパターンが一番普及したそうな。

French Portrait card deck, 1827: king of Hearts

なるほど、「19世紀のフランス人が気ままにキャラを後付けした」と言われれば、このラインナップも納得です。Wikipediaなどを見ると「ジャック」や「クイーン」についても「この人物がモデル」という話が載っていますが、まぁなんとも統一感の無いこと……。

後にフランス版のトランプが最も世界的に普及して「トランプと言えばこの絵柄」というイメージになったので、上記の「モデル」の話も一緒に広まったのでしょうね。

結論として、

・トランプの起源と4人の王はあまり関係がない

・19世紀に歴史上の王を当てはめたアレンジが流行った

・そのアレンジ版のうちの1種がたまたま普及した

というのが真相のようです。

3. 余談1:トランプとタロット

上で触れたように、14~15世紀にはヨーロッパ各国で様々なバリエーションのトランプが普及しました。Wikipediaに多くの項があることからもよく分かります。

タロットの小アルカナを元にしたのがトランプ」という話をたまにする方がいますが、これは違うようです。(何を「タロット」と呼ぶかにもよりますが)

上述のように、最初に普及したのは13(or12)×4のカードで、これは「playing cards」という呼び名からも分かるように「ゲームとしてのカード」です。

The Bohemian or Prague pattern is a derivative of the Old Bavarian pattern. Unlike other descendants of the Old Bavarian pattern, it does not contain 6s as Jass and Tarock are not popular in the Czech Republic. It is used to play Mariáš and Sedma.

これに対して「占いとしてのカード」が初めて記録で言及されているのは1773年の刊行物(詳しくは『タロットの秘密』などを参照)なので、かなり新しい。

つまり、「遊びのカードであるトランプ」に、後からカードが付け足されて、「占いのカードであるタロット」が成立した。こういう時系列になります。

4. 余談2:トランプと花札

ちなみに、日本に「トランプ」が伝わってきたのは16世紀だそうで。

南蛮貿易で伝わってきたトランプが、「天正カルタ」という名前で残っているようです。

Andy’s Playing Cards – Japanese and Korean Cards

しかし普及して間もなく、ギャンブルがお上の怒りに触れ、禁止令が出されてしまいます。

 
そこで考え出されたのが「花札」。
「数字」が明示されずに花の絵だけが書いてあるので、「いえいえ、これはめくって遊ぶ絵札なんですよ」という言い逃れが出来る、というわけです。
 
ポルトガル経由で入ってきたトランプはスペイン式で、数札が1~9しかありません。
つまり12種×各4枚です。
そういえば確かに花札も12×4の構成になっていますよね。
 
もっとも、米英のトランプが入ってきて、元々の「ポルトガルのトランプ」は日本では忘れられてしまいました
花札」だけが、あたかも「日本のゲーム」として残っているというのは面白いですね。
でも、「日本の伝統」だと思っているものの多くは、意外とそんなものかもしれません。

★ひとことまとめ

1. トランプは中国起源、14世紀にヨーロッパに普及

2. 19世紀フランスで歴史上の人物を当てはめたトランプが普及

3. タロット占いはトランプの遊びよりずっと後に成立した

4. 花札の元は南蛮貿易で伝わったポルトガル版トランプ

☆このトピックにオススメの本

鏡 リュウジ:

タロットの秘密.

講談社現代新書, 2017/4/19

こちらはタロットの本です。よくあるハウツー的な要素は非常に小さくまとめられており、「タロットの文化史」に重点が置かれています。今回の記事では少ししか取り上げられませんでしたが、タロットはタロットでこれまた非常に面白い歴史を抱えているんですね。

森田 崇 (著), モーリス・ルブラン (著):

怪盗ルパン伝 アバンチュリエ.

エギーユ・クルーズ, 2018/2/11

今回の調べ物のきっかけになった作品。ネタバレのため、どの短編で出てくるかは伏せます。でもそんなことよりとにかく面白いので一読をオススメします。古典名著たる「ルパン」を、原作に恥じないクオリティでコミカライズしています。

Catherine Perry Hargrave:

A History of Playing Cards and a Bibliography of Cards and Gaming.

Unabridged, 2012/6/13

「ガチ」な人には、迷わずこの本をオススメ。電子版で中を検めましたが、記述も資料もこの上なく充実していて素晴らしいです。英語なので敷居は高いですが、和書でこれに匹敵する本が存在しない以上、このトピックに関してはこれが唯一にして最良の参考書。

参考文献

書籍

Catherine Perry Hargrave: A History of Playing Cards and a Bibliography of Cards and Gaming. 2012/6/13

鏡 リュウジ: タロットの秘密. 講談社現代新書, 2017/4/19

論文

Gordon, Helen C. The Ludgate; London 巻 9,  (Mar 1900): 483-487.

池間 里代子. 花札の図像学的考察, 流通経済大学社会学部論叢, 2009-03 19 2 p.11-26

Webサイト(2018/5/11アクセス)

FACT CHECK: Four Kings in Deck of Cards:https://www.snopes.com/fact-check/the-four-king-truth/

Playing cards – Wikipedia:https://en.wikipedia.org/wiki/Playing_card

French playing cards – Wikipedia:https://en.wikipedia.org/wiki/Spanish_playing_cards

Tarot – Wikipedia:https://en.wikipedia.org/wiki/Tarot

Andy’s Playing Cards – Japanese and Korean Cards:http://l-pollett.tripod.com/cards9.htm

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木村勝哉

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