【書評】遠野物語へようこそ
遠野物語へようこそ
著/三浦佑之・赤坂典雄
ちくまプリマー新書 2010/1/5
BACKGROUND ――対象
怪談や民間伝承に興味の湧いた人が必ず出会うのが、柳田国男の『遠野物語』。
成立から100年を数える『遠野物語』は、岩手県の「遠野」を舞台にして定着した「河童」や「神隠し」や「マヨイガ」といった伝承を土着のままの形で保存した、民俗学における不朽の名作です。遠野を「妖怪の本場」たらしめたのは、その土地と言うよりもこの『遠野物語』によるものが大きいでしょう。最近でも妖怪を題材とした創作作品ではこの名を目にすることは多く、「民間伝承」というジャンルおいては不動の地位を占めています。
そんな高い知名度と影響力を誇る『遠野物語』ですが、いきなりこれを読破するのは若干辛いものがあります。原因は文量や文体と言うよりも、その構成の「まとまりのなさ」と「ノリづらさ」にある気がします。
私自身の記憶を辿っても、小泉八雲の怪談集などは中学生の時でもすんなり読めた記憶があるものの、『遠野物語』は、少なくとも当時は読み切るだけの根性がなく一度途中放棄したことを覚えています。
本書はそんないつかの私のような、「原書を最後まで読む根性がない」「そこまで原書ではノリ切れない」という人にぴったりな解説本です。10章の章立てにして、一つの章の中で比較的似通ったエピソードをいくつかまとめて紹介し、そこに解説を加える形式になっています。
筆者はいずれも民俗学・人文学の著書で評価の高いお二人。
岩波新書やちくま学芸や講談社学術文庫など、比較的「カタい」レーベルからも本を出されている著者ですが、本書では「若い人たちのもとに、『遠野物語を届けたい』」(P.155あとがきより)というコンセプトで書かれています。
METHODS ――目次
はじめに 『遠野物語』の誕生
第1章 始まりを語る神話
第2章 山からの呼び声
第3章 神隠し
第4章 家の盛衰
第5章 鉄とメスオオカミの一騎討ち
第6章 河童の子を産む女
第7章 山中のマヨイガに行く
第8章 馬と女との恋物語
第9章 魂のゆくえ
第10章 姥捨て
おわりに 物語を豊饒に読みほどくために
RESULTS ――所感
『遠野物語』の「おいしいとこ取り」と言いましょうか、特に語りやすい題材をダイジェストにしていることもあってか、最後まで楽しく読めました。
エピソードそのものもさることながら、民俗学に精通した筆者が、かみ砕いて、かいつまんで、知識を補助しつつ、遠野物語を粗く浅く広くさらっているので、とても挫折しにくい構成になっています。遠野物語という本自体や民俗学そのものについての解説もはさんであり、これを足がかりに本格的な民俗学の本を読み始めるきっかけにもなりそうです。
ずぶの素人でも読めるように。それでいて、楽しさと奥深さのエッセンスは失わないように。筆者二人は、専門家とは思えないほど絶妙に「一般人の感覚に合わせて」バランスをとってくれています。「若い人たち」が気軽に手に取れる本、というコンセプトが見事に達せられているのではないでしょうか。
この本から『遠野物語』の原典に手を出すも良し、別の解説本に手を出すも良し、です。
徹底していたり、よく網羅していたり、という本格的な解説本ではありませんが、だからこそ「興味があるけど手が出せていない」人への一冊目としてピッタリではないかと思います。
CONCLUSIONS ――結語
『遠野物語』は、有名な古典名著であるだけに「気になりつつ手が出ない」人は多いことと思います。
本書は、これ自体が質の高いエンターテイメントでありつつも、「『遠野物語』への入り口」「民俗学への入り口」としても機能する、優れた入門書であります。
こんな人にオススメ
★民俗学や民間伝承に興味のある人
★「遠野物語」に興味がある人
★東北の地を舞台にした昔話を知りたい人
遠野物語へようこそ
著/三浦佑之・赤坂典雄
ちくまプリマー新書 2010/1/5
狐太郎
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