チョコレートの世界史
近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石
中公新書, 2010/12/1
みなさん、チョコレートはお好きでしょうか?
私はチョコレートが好きです。
そんなわけで先日、チョコレート好きが高じて「チョコレート検定」を受けてきました。
私の受けた中級はテキストやっとけば受かる系だったんですが、テキストを読みながら「そういえば文化史好きなのにチョコレートの文化史は一冊も読んだこと無いなぁ」と思い立ちまして、本書を手にしてみたのでした。
結論から言うとめちゃめちゃ面白い本でした。
「チョコレート」は「コーヒー」や「紅茶」と似て、ヨーロッパの文明の「外」に起源を持ちながら、大航海時代にヨーロッパに持ち込まれ、近代化を経て西洋の大衆文化に根を下ろすことになったという経緯があります。
その中でも、特にチョコレートの面白さを挙げるならば、
- 時代を経る中で食形態や製法が何度も変わってきた
- 重要な発明に関わった人物の系譜が現代まで辿れる
という2点は文化史の中でも際立った点かと思います。
1については、コーヒーでも紅茶でも西洋文明へ取り入れられていく中で多少は形態や製法が変更されるものですが、チョコレートに関してはその移り変わりが特に多彩であり、製法上の様々な特異点が世界史と連動しているのが面白いと感じました。
・古代のマヤ文明の貴人たちが「辛くて刺激的なエナジードリンク」として飲んだ「ショコラ」が、どのようにして「砂糖」と出会ったのか。
・そして、現代のチョコレートの前身に当たる「ココア」が、どうしてキリスト教の中で「薬」としてお墨付きを得るに至ったのか。
・現代的な「固形のチョコレート」が産業革命と同時期に発明された必然性は何なのか。
こうした謎が全て世界史と紐付けられる形で解かれていく一連の流れは、伏線回収の見事な長編小説を見ているようで非常に気持ちが良いものでした。
2については、具体例を並べてみる方が分かりやすいと思います。
「ヴァン・ホーテン」「キャドバリー」「ネスレ」「リンツ」「ノイハウス」……
一つでも聞き覚えのある名前があるでしょうか?
これらは現代の企業名・ブランド名として残っているので、デパートやショップでいくつか見たことがあるという方が多いのではないでしょうか。
これらはいずれもチョコレート史の転換点となる技術的発明をもたらした人たちであり、本書の中でその発明の内容とともに言及されています。
私は本書を読んでからリンツのチョコレートを口にするたびにコンチェについて思いを馳せるようになりました。
「歴史の中の存在」が「身近な食品」の中に見出せるようになる楽しさ、と言えるでしょうか。
なお、本書の後半はほとんどが「キットカット」を生み出した「ロウントリー社」についての小史となっています。
後書きで分かったのですが、どうやら著者の元々のフォーカスはこの「ロウントリー社」のようで。
読んでみると確かに、ロウントリー社は現代の企業が行っている様々な取り組み(福利厚生や広告戦略や商品デザインなど)の先駆けであることが分かり非常に興味深いのですが、前半の話に比べていきなり細かい話へとスケールダウンした感は否めず……。
「キットカットの裏話」として楽しく読める人には良いんですが、あくまでも一社のケーススタディなので、「ここは興味の持てる人だけ読めば良いんではないかな」と思ってしまいました。
前半だけでも十分に元の取れる本かと思います。
前半は本当に、数ある文化史系の新書の中でもトップレベルに面白いです。
みんなもこの本を読んでチョコレートを食べましょう。
★NEXT STEP
チョコレートはなぜ美味しいのか
集英社新書, 2016/12/16
『チョコレートの世界史』が「歴史と社会学から見たチョコレート」だとしたら、こちらは「自然科学と工学から見たチョコレート」といった内容。
相補的な内容になっているので、チョコレートが好きな方は両方とも読んでみるとそれぞれに発見があって面白いと思います。
チョコレート検定 公式テキスト
学研プラス, 2021/1/21
私が受けた「チョコレート検定」の公式テキスト。
今年分はギリギリ締め切っちゃったみたいだけど、来年以降もあるのでちょっとでも「面白そう」と思った方は受けてみてはどうでしょうか。
中級は『チョコレートの世界史』と『チョコレートはなぜ美味しいのか』を両方読んでいれば合格点を取れそうな内容ですが、「手軽に中級合格したい」とか「高得点を狙いたい」という方はこちらのテキストを丸暗記すると良いかと思います。
チョコレート検定の受験記事は後日noteで出します。
狐太郎
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