脳の科学史
フロイトから脳地図、MRIへ
角川SSC新書, 2011/3/10
一般向けの「脳科学の本」では、よく「〇〇をやると脳のここが活性化します」という言い回しが度々見られます。
しかし、この「脳が活性化する」という記述が何を意味するのかが、その本にはきちんと書いてあるでしょうか?
「脳科学でこんなことが分かった」という「結論」の部分は頻繁に喧伝されますが、その研究が、「実際にどんな装置で」「何を測ることで」行われているのか、という話はなかなか表に出て来ません。
この本ではMRI開発にも携わった工学分野の専門家が、「脳を解明するための装置」という観点から脳研究史を非常に面白く解き明かしてくれます。
前半パートは、科学技術史というよりも「人類の”脳”観」の歴史が綴られています。人間が神経(脳)に着眼して行くまでの流れを、概ね時間軸に沿って解説されています。
中盤からは時間軸よりもトピック重視で、話題として話しやすい「まとまり」ごとに語られています。科学史的要素はどちらかというと「傍流」として脇に添えられる形ですね。
「時系列に沿って大事な出来事を並べる」という科学史モノの王道から見るとなかなか「型破り」な構成ですが、「科学技術読み物」としては非常に面白く仕上がっています。
技術まわりのテクニカルな話は筆者のガチ専門分野だけあってなかなか難しいですが、「脳科学の研究を批判的に読む」ためにはこういうハードサイエンスの知識が必要なんだなと身につまされます。
全体としては良い本なんですが、専門の工学分野以外の説明では時々「アヤしい」のと、主観的解釈や人物評については「そこまでは言えないんじゃないかなぁ……」みたいな部分が目立つのが玉に瑕。
ゲームが犯罪を助長するとか、そういう拡大解釈なんかは典型的な地雷。
この辺の風呂敷の広げ方(特に心理や進化への根拠の乏しい言及など)は、「科学書」ではなく「新書」というフィールドだからならまぁ許されてるのかな、という感じもしました。
全体を通してかなり研究寄りの話題が多いので、新書にしては要求する基礎知識のレベルが高めですが、かろうじて高校レベルの物理・生物の知識で読めるくらいにまとまっていると思います。
「ポピュラーサイエンスの脳科学の本」としてはいささかハードルの高い部類ですが、「ハードサイエンスとしての脳研究」を覗いてみたい方には是非読んでほしい内容です。
★NEXT STEP
その〈脳科学〉にご用心
脳画像で心はわかるのか
紀伊國屋書店, 2015/7/1
「脳科学」を批判的に読解するための、いわば解毒剤のような本。
サブタイトルの「脳画像で心はわかるのか」が非常に端的に本書の内容を示しています。
現代の「画像技術に基づいた脳科学」に対する過剰な信奉に対し、総論的に、あるいは各論的に批判と反論を加えています。
狐太郎
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