訓読みのはなし
漢字文化圏の中の日本語
光文社新書, 2008/5/16
訓読みのはなし
漢字文化と日本語
角川ソフィア文庫, 2014/4/25
※光文社新書と角川ソフィア文庫で同タイトルが出ています。
後から出た角川ソフィア文庫の方が価格が安く、わずかですが加筆・修正がなされているので、基本的にはこちらを推奨します。
ただ、加筆・修正箇所はわずかなので、Kindle Unlimitedをご利用の方は光文社新書の方で読んでも支障はないかと思います。
今回は漢字の本です。
日本語本や漢字本は結構トンデモも多いので、一般書を選ぶにしてもちゃんと学術書を書いてる方の本を選ぶのがいいかな、と個人的には思っています。
今回の本は、漢字の中でも敢えて「訓読み」だけにフォーカスした本。
一見すると有象無象の漢字雑学本のようですが、割と骨太な話が随所に顔を出します。
「漢字には『音読み』と『訓読み』があります」という小学校レベルの認識で止まっていた身としては、初見でタイトルだけ見た時には「何で訓読みだけ??」という疑問が湧きましたが、本書を読み始めると疑問は氷解します。
「音読み」が「中国の漢字文化の輸入」だとするなら、「訓読み」というのは「中国から輸入した文字に日本の読みを与えた融合文化」だと言っても良いのではないでしょうか。
大げさに言えば、「訓読み」には「『日本の文字』としての漢字」が非常に多面的に反映されているのです。
再び小学校の頃の国語を思い返すと、私の覚えている限りでは授業で
「一文字で読んだら意味が分からないのが『音読み』です」
「そのままの読みで意味が通るのが『訓読み』です」
と習ったのですが、今思うとこの説明は「子ども向け」でしたね。
「大体通用する判別法」としては有用ですが、「音読みとは何か」「訓読みとは何か」という点については何も説明していません。この点を本書でアップデートできただけでも良かったと思います。
小学校の国語の授業で私と同じような説明を受けた方には、是非とも本書を読んで認識を更新して頂きたい気持ちがあります。
ちなみに、学校の国語で使われるビミョーなワードに「表意文字」というのもあります。
「漢字は表意文字」というアレですね。
「漢字のある一側面を切り出して、そこに『表意文字』という言葉の語義を広めに取って当てはめる」ならば、ある意味正しいようなのですが……。
実際には漢字には「表意文字」の側面もあり、「表音文字」の側面もあり、「表語文字」の側面もある、というのが本書での筆者の立場でした。
「文字の属性としていずれかのカテゴリに該当するわけではなく、使われ方によってどの側面の色が強く出るかが異なる」といったところでしょうか。個人的にはこの問題に対して最も納得の行く明瞭な立場かと思いました。
この辺も、3つの文字カテゴリの違いを明確化した上で論じている文書はなかなか見つからなかったので、非常に参考になりました。
単なる「漢字の読み方とその由来」の雑学本かと思って手に取った本でしたが、「総論」的な知識も非常に充実しており、期待以上の収穫がありました。
「漢検」などのテキストで「量」として漢字知識に触れるのも楽しいのですが、こういう「今まで持っていなかった漢字に対する見方」を与えてくれる本は、やっぱりインパクトが大きいです。
★NEXT STEP
漢検 1/準1級 過去問題集 2021年度版
日本漢字能力検定協会, 2021/3/29
漢検の問題集は実はどうでも良いんですが、「漢検的な漢字の勉強」との親和性と相違点について少し話したいなと思いました。
「漢字や読み書きをたくさん覚える勉強」と、『訓読みのはなし』のような「漢字そのものに対する見方を深める本」は相補的に働くものだなと感じています。
漢字をたくさん覚えてから本を読むと「あー! あの時に引っかかってた字にはこういう事情があったのか!」と腑に落ちたり。逆に、本を読んでから漢字を勉強すると「あ、これは前に本で見た『わけあり』な訓読みだな」とピンと来たり。
この2つを行き来するように勉強していくことが出来ると、すごく楽しいですね。
正直に言えば、その勉強をするのに必ずしも「漢検」である必要は無いし、漢検自体も色々と批判はされているのですが、やっぱり「問題レベルがたくさん選べて教材も充実している漢字クイズ集」というと結局は「漢検の教材」になってしまうんですよね……
狐太郎
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