イデオロギーは一旦脇に置いて、まず「科学としての進化学説」に触れてみる【新書読書】

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木村 資生

生物進化を考える

岩波新書 1988/4/20

 

 

進化論、お好きですか?

ネットの皆様が進化論を語るのが大好きなのは重々存じております。

 

ところで、日本には世界的にも有名な進化学者がいましたね。

え? 知らない? いやいやまさかそんなはずは……。

こちら、木村資生大先生でございます。

生物の教科書では「遺伝的浮動」「進化の中立説」というキーワードで有名です。

Google Scholarを使ったことがある人なら、画像の業績がどれだけトンデモネエか分かるはず。

 

世界においても(日本人としては)異例の知名度を誇る進化学者の木村資生氏ですが、
実は「日本語で」「一般向けに」書いて下さった進化学の入門書があるのです。

それがこの岩波新書。

「大御所が書いた本」という先入観抜きで読んでもメチャメチャ良い進化学の入門書です。

 

古典的なダーウィンやメンデルの話から入って、集団遺伝学までスムーズに接続されています。

そして本の後半では、当時の最先端の学説たる「分子進化の中立説」まで概説しています。

進化学の主要な学術的進展を網羅しつつ、読み物としても完成度の高いものになっています。

 

そして、もし、もし仮にですが、今まで木村資生氏のことを知らなかった人がいれば、本書を読んだ後に日本語や英語で、彼の打ち立てた業績や巻き起こした議論について調べてみて下さい。

「こんなすごい人が、わざわざ一般向けに日本語でこんな本を残してくれたなんて、なんて幸運なんだろう」と思うことでしょう。私も思います。

進化についての一般書というと博物学的なものが多いですが、本書は木村氏が得意とする数理的進化モデルをガッツリ扱っており、同等の内容を扱った一般書を見つけることは現在でも困難です。

 

そして流れをぶった切りますが、私が個人的に非常に不意を突かれたのは以下の一節です。

 大きな進化が起こるためには自然淘汰が一時ゆるむ必要があることは、淘汰万能論
者の見落としやすい点である。 -P.258

これは「淘汰圧によって良い方向へと進展する」「自然淘汰によって得た進歩は常に最適化である」といった「通俗的な進化論の援用」に際しても、論者たちが見落としがちな点でもあると思います。

「自然科学を胡乱に人間社会に当てはめる前に、まずその科学的側面を真摯に学ぶべし」……という念が湧きます。

もちろん自戒としてであり、一部のアルファツイッタラーたちに向けてではありません。

 

とはいえ、非常に良書ではありますが本書にもいくつかの留意が必要です。

まず、それなりに古い本であるということ。

近代までの科学史の部分については現代でも通用しますが、いくつかの部分については反論や再評価がなされていることがあります。本書で進化学の知識を「完成」させずに、是非とも更に新しい本でアップデートしてください。

本書には巻末に引用文献が付されていますが、引用文献もまた古いので、本書に関してはリファレンスを使うにも限りがあります。

 

それから、「木村資生氏も文明や社会や人間については素人である」という点にも留意が必要です。

彼の専門は数理的進化モデルであり、人文や社会についてはかなり不用意な言及があります。

私の言を心に留めて読んで下さる方なら、「あぁ、この部分かな」とピンと来るところがあるかもしれません。私からは申しません。

 

★NEXT STEP

チャード ドーキンス(著), 吉成 真由美(編, 訳)

進化とは何か
ドーキンス博士の特別講義

早川書房, 2014/12/25

 

「有名な進化学者が自分で一般向けに書いた本」を紹介したので似たような本を。

おそらく現在世界で最も有名な進化学者、リチャード・ドーキンスです。

氏の著書として最も有名なのは『利己的な遺伝子』ですが、「新しい」「読みやすい」という二点で、一般向けの入門としてはこちらを先に読む方が良いと思います。

過去の著作(『利己的な遺伝子』『盲目の時計職人』など)の内容もかなり触れており、この本自体が「現代的進化論のダイジェスト + ドーキンスのライフワークのダイジェスト」といった感じになっています。

「進化を一般向けに解説する」という同じコンセプトでも、木村氏とドーキンス氏ではかなり切り口が異なっているので、そういう観点から対比的に読んでも面白いと思います。

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木村勝哉

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