18歳の著作権入門
ちくまプリマー新書, 2015/1/8
昨今、ほとんどの人がスマホを持って、ネットに接続しています。そしてSNSにも。
現代において「ネットを利用できる」ことは「公に情報を発信できる」こととほぼ同義です。
「誰もが発信者になる時代」において、「著作権」は「誰もが関わる問題」となりました。
あまり意識されていないかもしれませんが、
例えばTwitterの呟き一つでも、「著作物として著作権が発生する」ことがあります。
逆に、たとえ呟き一つでも、「著作権の侵害」とみなされうる可能性があります。
とはいえ、義務教育でも習わないのが「著作権」。
いわば私たちは、誰もが自動車を手にしながら、交通法規を知らずに運転している状態です。
「知らなきゃいけないのは分かってるけど、何から学べばいいのか……」という方も多いはず。
そこで、「初めて読む著作権の本」として全てのネットユーザにオススメなのが本書です。
本書でも扱われている、身近な著作権事例をいくつか挙げてみましょう。
・プロの曲をファンが歌ってその動画をYouTubeにアップした
・愛用しているボールペンを鉛筆で模写して、イラストとして投稿した
・新聞や公的記録を元に、実在人物のノンフィクション小説を書いた
・市販されている写真集を購入して、自分の経営するカフェに展示した
・友人や親戚を集めた結婚式で、市販されているCDをBGMとして使った
ドンピシャ事例や類似事例に心当たりのある方、かなり多いんじゃないでしょうか。
では、これらの事例がアウトかセーフか、判別できますか?
自信を持って答えられない方には、是非とも本書の一読を勧めます。
(ちなみに上記に挙げたのは全て「そうだったのか!」と私が膝を打った事例です)
その他、ネットの炎上事例でも、著作権に関わる事例は度々発生します。
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1911/30/news035.html
これは本書の出版より後に発生した事例ですが、本書を一読していれば
・自分宛てに送られたリプライを「自分名義の著作」にすることは可能なのか?
・引用であるとみなした場合に、引用としての問題点はどこにあるか?
・著作権とは別に、著作者人格権を考慮するなら、どこに問題があるか?
といった多数の観点に問題を分別して、網羅的に問題点を把握できるかと思います。
(それほど問題があるのに、なぜ看過されているのか……についても分かります)
加えて、本書が極めて有用なのは「著作権的に許容される用例」の紹介が豊富な点です。
「これはダメ」という話はネットの記事のつまみ食いでも結構得られますが、
「こういう範囲内での利用ならオッケー」
「条文ではグレーゾーンが分かりにくいけど、具体的にこのくらいなら許されてる」
といった方面からの知識は、専門家の解説ならではです。
著作権の知識には、
「発信者がダメなことをしないように知っておかなきゃ」という消極的な動機だけでなく、
「こういう発信スタイルなら堂々と出来るんだな」という積極的な利益もあるわけですね。
私自身も本書を読む中で「そうか、じゃあこういう企画は出来るんだな」という発見がいくつかありました。
本書は「入門書」でありながら、ネットでの発信やイベントの企画といった現実の場面で大いに効果を発揮する、「超・実用的な本」でもあります。
インターネットで何かを「発信」しようと考えている人はもちろんのこと、SNSを利用するのであれば是非とも一読をオススメしたいと思います。
ただ、一点注意しておく点として、本書の出版は2015年です。
2018年に、TPP協定に関連して以下のような著作権保護期間の延長がありました。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/kantaiheiyo_chosakuken/1411890.html
こうした部分については、上記サイトなどを参考に知識をアップデートする必要がありますね。
★NEXT STEP
『18歳の著作権入門』の巻末には【参考文献 兼 読書案内】が付してあります。
本書の内容を更に深めたい方にはそちらをお勧めします。
そして本書の内容を補完する入門書として、以下を勧めます。
楽しく学べる「知財」入門
講談社現代新書, 2017/2/15
こちらでは、「著作権」に加え、「商標権」や「特許権」についてカバーしています。
企業活動と関わりが強い領域なので、私たちの私的生活の上では著作権よりも関わりが薄いですが、いわゆる「パクリ騒動」とは切っても切れない関係にあります。
要するに「ネット炎上の野次馬をやるなら知っておくと著作権と同じくらい美味しい!」です。
ネット炎上ウォッチャーの皆様はこちらも併せて是非どうぞ。
狐太郎
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