功刀 浩:
精神疾患の脳科学講義.
金剛出版, 2012/7/10
BACKGROUND ――対象
近年、精神疾患が「脳の病気」であるということは一般にも認識されつつあります。
しかし、具体的に「脳がどう異常を起こしてどんな精神疾患が起きるのか」は完全に解明されているわけではありません。
こうした研究は21世紀の現在、まさに現在進行系で発展している領域です。
「精神疾患の脳では何が起こっているか」を神経科学研究から見ていきましょう。
著者の功刀先生は神経科学の基礎研究にも精通した精神科医。
本書の内容は専門誌『臨床心理学』の連載記事がベースとのことです。
1章ごとに完結なので1コマずつ講義を受けているような感覚で読み進められます。
METHODS ――目次
目次
まえがき
第1章 統合失調症は認知症か?
第2章 統合失調症は広汎性非特異的高次脳機能障害である
第3章 統合失調症の脳形態異常
第4章 統合失調症はどこからくるか
第5章 統合失調症の発病過程
第6章 妄想をつくりだすドーパミン
第7章 うつ病=”慢性”ストレス性精神疾患
第8章 うつ病におけるモノアミンと神経栄養因子
第9章 ドーパミンの威力と魔力
第10章 慢性疲労症候群・筋線維痛症・非定型うつ病
第11章 ストレスホルモンと恐怖記憶
第12章 精神栄養学と生活指導
参考文献
索引
RESULTS ――所感
読むための敷居は比較的低くしながらも、内容は手を抜かず本格的です。
特に出典や参考文献がきちんと気を配って書かれていることが見て取れます。
「脳科学」と銘打つ本には事実無根のネタ本も多いですが、やはり専門家はこうでなくては。
話題を何となくふわっとまとめずに具体的な実験や物質に言及して紹介していますし、2000年以降の(比較的)新しい知見をかなり盛り込んでいます。
ただ、筆者が独自解釈を挟む場面もしばしばあり、その辺は割り引いて読むべきでしょう。
化学や生物に関しては高校程度の基本用語は説明無く出てきます。なのでウォーミングアップに大脳生理学の概説的な本を一冊くらい読んでから手を付けるのも良いかと思います。
本書で重点的に書かれ、また私の印象に残ったのは、「ドーパミン」に関する話。
統合失調症の妄想・幻覚は脳内の「ドーパミン」の過剰によって起こっていると言われていますが、実はこれは「覚醒剤が幻覚を引き起こす原因になっている物質」でもあります。
そしてこのドーパミンが「うつ病」でも関係している、というのが比較的新しいトピック。
「典型的な抗うつ薬(SSRI/SNRI)が効かないうつ病」に、ドーパミンを増加させる薬物を投与すると約2/3くらいの人は改善する。――と著者は報告しています。
このように精神疾患が「細胞や物質」との関連で語られるようになったのは、ここ数十年の精神医学の発展の賜物でしょう。
かつて精神疾患は悪魔や神霊、あるいは妖怪や鬼として説明されていました。
これからの時代は、そうした精神疾患が「脳の病気」として、科学の目で解明されていくんじゃないだろうか。――そんな予感を感じさせてくれました。
CONCLUSION ――結語
「精神疾患」というと掴みどころがないようなイメージを持っている人も多いはず。
確かにわからないことはまだまだ沢山ありますが、一方で、化学物質や細胞といったミクロな生物学の次元でかなり多くのことが解明されつつあることも事実です。
本書ではメジャーな精神疾患を中心に、近年の神経科学の進展を垣間見ることが出来ます。
こんな人にオススメ
★心理現象の解明に興味のある人
★脳のはたらきに興味のある人
★統合失調症・うつ病に興味のある人
功刀 浩:
精神疾患の脳科学講義.
金剛出版, 2012/7/10
この記事を書いた人
狐太郎
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